今回のパブリック・コメントは第1段階
昨年の23年12月に交付された新しい大麻法/麻向法では、2段階の改正がこれから施行されます。
厚労省方針
第一段階 24年10月1日
大麻由来医薬品の施用、施用罪の適用、CBD製品のTHC残留限度値の設定
大麻草研究栽培者免許の施行、分析業務は麻薬研究者(都道府県知事免許)
第二段階 25年3月1日
第一種、第二種、研究者の栽培規制に関すること
今回のパブリック・コメントは、第一段階となっています。締切6月29日まで
【募集開始】医療従事者/CBD製品事業者などの現場の声を届ける機会です。
https://hemptoday-japan.net/16244
今までの免許実務
これまでは、大麻草の栽培については例外を除いてほとんど都道府県知事からの免許が交付されなかった歴史があります。その主な規定は、このように書いていました。
大麻取扱者免許に関する厚生労働省発行の文書
平成10年7月21日愛知県知事が出した大麻取扱者免許交付却下処分に対する審査請求に係る裁決書(平成11年1月14日厚生省収医薬第15号)
「種子や繊維を農作物として出荷したり、伝統的な祭事に利用したり、栽培技術を代々継承したりするなどの何らかの社会的な有用性が認められるものでなければ、大麻の栽培を必要とする十分な合理性がないものとして、免許権者の判断により免許申請を却下することができると解するのが相当である。」
平成13年3月13日付医薬監発麻第294号の通知
「その栽培目的が伝統文化の継承や一般に使用されている生活必需品として生活に密着した必要不可欠な場合」
参考:北海道ヘンプ協会 栽培免許について
免許が交付されたとしても過剰な規制があった
下記の事例は三重県のアサは、低THC品種であることが証明されていたにも関わらず、実際に県薬務課から栽培条件として免許者に課せられた義務でした。
・合法部位である繊維や茎の県外越境取引の禁止
・盗難防止のための高さ2m以上の鉄柵設置&有刺鉄線+南京錠
・24時間の監視カメラ設置
・夜中の見回り
・5年間の監視記録保存
・後継者育成のためのアサ栽培の農業研修生の受入禁止
・アサ畑の写真のインターネットやSNSアップはNG
参考:三重県明和町、天津菅麻プロジェクト、伊勢麻によくある質問12選まとめ
https://hemptoday-japan.net/15276
第一種免許とは?
今回の法改正によって、3つの免許区分となり、第一種の免許は、従来の伝統的な用途のための栽培に加えて、新しく食品、建材、プラスチックのような産業用途のための栽培免許となります。
都道府県知事許可:第一種大麻草採取栽培者(産業用途/伝統的な用途)
厚生労働大臣許可:第二種大麻草採取栽培者(医薬品原料)
大麻草研究栽培者(栽培を伴う研究)
第一段目のパブリック・コメントでは、25年3月以降に各都道府県で定められる行政手続法に基づく、大麻草栽培の審査基準に関する技術的指導の考え方について意見が求められています。
図1 免許審査基準に関する概要
第二種免許の「保管設備があること」「管理体制の適切さ」が「◎」となっているのは、審査基準案には明記されていませんでしたが、WHO GACP(薬用植物栽培と野生品採取に関する生産管理基準)に準じた品質管理体制がないと製薬会社との取引が不可能なので、第一種より厳しいという意味です。
日本の低THC品種は安全であり、濃縮しても乱用につながらない
厚労省麻取部研究で次の結論が得られており、安全性が確認されています。
「無毒大麻と言われている“とちぎしろ”から微量ではあるがTHCが検出されたが、CBDの方がより高濃度含有されていた。また、ブタンガスを用いることで“とちぎしろ”の葉からTHC,CBDを効率よく抽出することが可能であった。調整したBHO中のCBD含有量は幻覚成分のTHCよりも5倍以上高く、仮に“とちぎしろ”などの繊維型大麻草から製造されたBHOを摂取したとしても、THCによる幻覚作用はほとんど得られないことが推察された」
杉江謙一, 阿久津守 (2020) 「繊維型大麻草及びその濃縮物中のカンナビノイド含有量の調査」『日本法科学技術学会誌』25(1), p115-121. https://doi.org/10.3408/jafst.763
図2 アサ畑
三重県では23年度から低THC品種であれば堅牢な2m以上の柵は要求されなくなった
都道府県薬務課は監督取締を担い、農政課は農業振興を担う
米国では、低THCの栽培免許の管轄は、麻薬取締局(DEA)から農務省(USDA)に変わり、コムギやトウモロコシのように一般農作物として取り扱うことが実現できています。
しかし、日本は、今まで通り厚生労働省の命令系統の各県薬務課が、第一種免許の窓口となります。
農業振興とは全く縁のない部署なので、審査基準の運用のさじ加減で、いくらでも過剰な規制ができます。少なくとも旧・大麻取締法上の運用では原則栽培禁止にまで厳しくなったことは歴史的事実です。(注1,注2)
盗難防止策「一般農作物の盗難防止措置を超えた著しく合理性に欠く義務を課さないこと」と明記されていますが、この制度の運用がどうなるのか?
これから免許取得したい人や企業にとっては、最初の大きな壁になることが予想されます。
また、国内栽培者がたったの10県27名7ヘクタールの作付面積しかいない中で、既存の農家からの国内種子の譲渡確保も大きな壁です。栃木県産品種“とちぎしろ”は、原則として県門外不出です。さらに、農家が先祖代々守ってきた種を、どこの馬の骨かもわからないものに「はい、どうぞ」といってもらえることは常識的に考えて難しいでしょう。
ちなみに、海外の大麻草品種の入手手続きについては、今年秋ごろの第2段目のパブリック・コメントで規則が明らかになる予定です。
パブコメ意見例
私の住む県は、第二次世界大戦直後の大麻取締法が制定されてから栽培実績が全くない地域だと聞いています。今回、第一種免許の審査基準の考え方が示されましたが、本当に私の住む県でも栽培免許が交付されるのでしょうか?
「一般農作物の盗難防止措置を超えた著しく合理性に欠く義務を課さないこと」とありましたが、私の住む県の薬務課は、低THCの大麻草に理解が全くないので、不当で過剰な規制義務を課すことが予想されます。そのとき、我が県当局の方々に厚労省の方から行政指導をしてくれることを希望しています。
また、種の入手先は、国内の栽培者からの譲渡および海外品種の輸入が可能になるとありましたが、どこにアクセスしたらよいのかわかりません。各県当局の方が、第一種免許の取得希望者にアドバイスできるよう種子が譲渡可能な農家連絡先(もしくは管理団体連絡先や海外種子の輸入代行業者)を国が責任をもって整備すべきです。
●年●月●日
氏名、住所、メール
参考資料
注1:農業経営者22年11月号「特集:日本の産業用ヘンプ(前編)」
https://agri-biz.jp/item/content/pdf/5581
注2:農業経営者23年1月号「特集:日本の産業用ヘンプ(後編)」
https://agri-biz.jp/item/content/pdf/5611
今回の対象パブコメ
第一種大麻草採取栽培者免許申請の審査に当たっての考え方(案)に関する御意見の募集について
案件番号495240038
案の公示日2024年5月30日
受付締切日時2024年6月29日0時0分
所管省庁 厚生労働省
こちらから(外部サイトへのリンク):https://public-comment.e-gov.go.jp/495240038
参考リンク
大麻草の栽培の規制に関する法律、麻薬及び向精神薬取締法を一部改正する法律
第一段 未施行 医薬品の解禁と施用罪の適用
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000124_20250601_504AC0000000068
第二段 未施行 産業用と医療用の栽培の適正化
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000124_20251212_505AC0000000084