MENU
カテゴリー

ヘンプ繊維産業の胎動、市場の壁を越え、信頼と標準化が導くサステナブル素材の未来

目次

ヘンプ繊維業界は前向きな見通し

北米におけるヘンプ繊維の加工分野は、深刻な市場課題や構造的制約に直面しているにもかかわらず、依然として強い楽観的な姿勢を保っていることが、Canna Markets GroupとHempTodayが共同で本日発表した新レポートで明らかになりました。

このレポート『北米ヘンプ繊維加工レポート(North American Hemp Fiber Processing Report)』は、同分野に関するこれまでで最も詳細な現状把握の一つであり、米国およびカナダにおける企業への調査、インタビュー、現場検証に基づいて、業界の「現実」と「未来への道筋」を明瞭に提示しています。

この初のレポートは、国際ヘンプ組織連盟(FIHO)が主導する戦略プロジェクト「EVOLVE 2033」の後援によって公開されました。

この取り組みの一環として、各企業や関連団体は、産業用ヘンプを「持続可能な農業」「先端製造業」「グローバル供給網」へと統合するための包括的な枠組みである「マーケット・インテグレーション・ストラテジー(Market Integration Strategy)」に賛同する正式な誓約書に署名するよう招かれています。

インフラの未整備という課題

現在、北米のヘンプ繊維産業においては、インフラ整備とサプライチェーンの構築が依然として最大のボトルネックとなっています。
そのため、業界関係者は生産規模の拡大よりも先に、「安定した市場の創出」に注力すべきだとレポートは指摘しています。

テキスタイル(繊維製品)の国内回帰(リショアリング)が広く進む兆しは見られないものの、ヘンプ素材は「持続可能性」を重視するニッチで専門性の高い分野において、着実に需要を獲得しつつあります。

このような「受け入れ先産業」の具体例として、フロリダ州に拠点を置くBoardwurks Biocomposites社が挙げられます。
同社は、このレポートが訴求すべき“目的地産業(destination industries)”の代表格であると、Canna Markets Groupのキャリンジャー氏は語っています。

Boardwurksは、カーボン・スマートなエンジニアード・パネル「Hempboard(ヘンプボード)」を製造しており、これはパーティクルボード(木質チップ板)やファイバーボードの持続可能な代替材となるものです。同社は、ボート製造などで使われた廃棄ガラス繊維ラミネートや、廃棄された風力発電用ブレードの再利用を含む、自然素材・再生素材を活用した製品群の中に、ヘンプを組み込んでいます。

過渡期にある業界の姿

ヘンプ繊維は、再生可能建築、テキスタイル、バイオプラスチックなどのグリーン・イノベーションにおける中核素材としてしばしば称賛されますが、今回のレポートでは、この市場は依然として脆弱で過渡期にあると指摘されています。
主な課題として挙げられているのは:
インフラの断片化(統一的な整備の不足)
繊維品質のばらつき
サプライチェーンの未成熟
資金面での制約
「このレポートが明らかにしているのは、インフラの断片性や市場の不確実性があるにもかかわらず、確固たる意志を持ったステークホルダーたちが、北米における実行可能なヘンプ繊維経済の基盤を築きつつあるという事実です。」と語るのは、FIHO(国際ヘンプ組織連盟)でコミュニケーション&エンゲージメント共同責任者を務めるジョセフ・ヒッキー氏です。
「これは“レジリエンス(回復力)”の物語であり、本来もっと評価されるべき取り組みです。しかし、本当の進展を実現するには、私たち全員が方向性を揃える必要があります。『EVOLVE 2033 誓約』への署名は、統合されたヘンプ産業を築くための第一歩なのです。」
また、ヒッキー氏はヘンプ繊維産業の「地域密着型構造(ローカルファースト)」が持つ戦略的価値にも言及しています。
「ヘンプ繊維は、地域ごとに統合されたエコシステムの中で最も効果を発揮する素材です
これは、他の一次産品に見られるような世界的な貿易ショックや供給網リスクの影響を受けにくいことを意味しています。つまり、ヘンプは単なる“気候対策素材”ではなく、戦略的な工業用素材でもあるのです。」

最初に攻めるべきは「建材」と「テキスタイル」

20年以上のテキスタイル・ファッション業界経験を持つキャリンジャー氏によれば、ヘンプ素材が最初に本格参入すべき市場は、建築資材と繊維(テキスタイル)分野であると述べています。「この2つの産業は、非常に高い環境負荷を持つ“脱炭素化が急務”な分野です。だからこそ、ヘンプ素材の利点を両業界のリーダーに対して明確に訴えていく必要があります。」
今回のレポートでは、ヘンプ繊維市場の拡大に向けた8つの主要提言が盛り込まれています。
その中でも特に強調されているのが:
•需要主導型モデル(demand-led models)への転換
•地域エコシステム(地域内のサプライチェーン・ネットワーク)の構築
•人材育成・スキル開発(workforce training)
•投資リスクの軽減(de-risking investment)
といった、構造的かつ持続可能な基盤づくりです。
「ヘンプ繊維の真のチャンスは、“大量生産を狙うこと”や“業界内での盛り上がりを追いかけること”ではありません、信頼を築き、品質を一貫して提供し、実際にこれらの素材を必要としている産業において成果を示すこと。その実務こそが、この分野の本当の価値を創るのです。」と、キャリンジャー氏は語ります。

編集部あとがき

今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。

 

1.ヘンプ繊維産業は“市場未成熟”ながらも、明確な方向性と熱意がある
北米のヘンプ繊維業界は、断片的なインフラ、不安定な品質、資金不足など多くの課題を抱えながらも、強い意志と構造的なアプローチで前進していることが明らかになりました。EVOLVE 2033などの取り組みは、業界を横断した統合の必要性を象徴しています。

 

2.市場の“受け皿”はすでに存在している:建築・テキスタイルが最有力
ヘンプ素材の導入先として、カーボンフットプリント削減が急務の「建材」や「繊維」業界は最も説得力がある分野です。特に、持続可能性を前面に押し出す中小・専門企業が“導入の先鋒”となっており、Boardwurks社のような事例はその象徴といえます。

 

3.大量生産よりも「信頼・標準化・証明」が優先
このレポートが強く打ち出しているのは、「ただ作る」から「実需に応える」段階への移行です。つまり、品質の安定、仕様の標準化、パフォーマンスの実証といった“業界基盤”の構築が最重要課題であり、そこへの取り組みこそが、将来的な拡大の鍵となります。

 

4.ローカル志向の産業構造は“地政学リスクへの耐性”にもつながる
ヘンプは地域ごとの生産・加工が成り立ちやすく、他のコモディティと比べてサプライチェーンショックに強いという特性を持っています。これは、気候変動対策だけでなく、戦略的素材としての地位確立にも寄与するという、新たな産業的価値を示しています。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URL Copied!
  • URL Copied!

AUTHORこの記事をかいた人

HempTODAYJAPAN編集部です。HemoTODAYより翻訳記事中心に世界のヘンプ情報を公開していきます。加えて、国内のカンナビノイド業界の状況や海外の現地レポートも公開中。

目次
閉じる