成形ヘンプブロックの性能は「圧縮方向」で変わる
ヘンプハード(麻の芯部分)をブロックに成形する際、どの方向に圧縮するかによって、断熱性や耐久性に大きな違いが生まれることが明らかになりました。
これは、イギリスの学術出版社テイラー&フランシス(Taylor & Francis)が発行する『Journal of Natural Fibers(天然繊維ジャーナル)』に掲載された査読付き最新論文の主要な結論です。
この研究によれば、ヘンプとマグネシウム系結合材を使った複合ブロックを「熱の流れる方向に沿って」圧縮成形すると、断熱性能が最大で25%向上することが判明しました。
一方で、熱の流れとは逆方向に圧縮すると、ブロックの機械的強度(=壊れにくさ)が向上するという結果が得られています。
つまり、原料を変えることなく、圧縮する向きを変えるだけで、用途に応じて「断熱重視」または「耐久重視」の性能を選べる可能性があるということです。これは、製造現場にとって非常に実用的な知見と言えるでしょう。
この研究を主導したのは、ポーランドのルブリン工科大学のPrzemysław Brzyski(プシェミスワフ・ブジスキ)氏とJakub Wankiewicz(ヤクブ・ヴァンキェヴィチ)氏、そしてラトビア・リガ工科大学のLīga Puzule、Māris Šinka、Diāna Bajāreの各氏です。
試験内容の詳細
強度に関する研究成果
今回の研究では、最も高い圧縮強度を示したブロックで最大1.73メガパスカル(MPa)に達し、これは軽量コンクリートに匹敵する水準であることが確認されました。また、軽量な配合比のブロックでは、熱伝導率が0.07 W/m·Kという極めて低い値を記録しています。これは断熱材としての性能が非常に高いことを示しています。
さらに、この分野の知見を深めるべく、スロバキアのジリナ大学(University of Žilina)からも注目すべき研究成果が報告されており、同じくヘンプハードとマグネシウム系バインダーを用いたブロックが3 MPaを超える圧縮強度を達成したことが明らかになっています。
これは、一部の軽量コンクリートを上回る性能ともいえる結果です。
現在のところ、これらのヘンプ・マグネシウム複合材は高荷重構造にはまだ適していないものの、特定用途においては「自立壁」や「構造用レンガ」としての活用が十分に見込める性能を持つことが分かってきました。
特に、断熱性能や環境持続性が重視される建築用途において、構造設計への応用可能性が広がっていると言えるでしょう。今後、バインダーの化学的進化や試験プロトコルの標準化が進むことで、断熱材を超えた「構造材」としてのヘンプの可能性が現実味を帯びてきています。
これまでの一般的なヘンプ建築では、木材や鉄骨構造フレームの中に、ヘンプライム(ヘンプ+石灰)やヘンプクリートを充填する「充填材方式」が主流でした。この方式は、断熱性、透湿性、炭素吸収性能などを重視する一方で、構造強度は二の次とされてきました。
しかし近年では、より高い圧縮強度を持つ「耐力壁ヘンプブロック」への関心が急速に高まりつつあります。特に、モジュラー建築、プレハブ住宅、または低層建築向けの用途において、施工の簡素化と用途拡大が期待されています。
環境プロファイル
編集部あとがき
今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。
1. 「圧縮方向」で性能が変わる:断熱か、強度かを“選べる”建材に
今回の研究で明らかになった最大の収穫は、同じ材料でも“圧縮方向”を変えるだけで「断熱重視」か「構造強度重視」かを選択できるという点です。これは、製造コストを増やさずに建材の機能特化が可能になる非常に実用的な知見です。
2.マグネシウム系バインダーでも3MPa超の強度を実現:構造用途の可能性へ
従来は断熱材としての評価が中心だったヘンプ素材ですが、ジリナ大学の研究では3MPaを超える圧縮強度も確認され、軽量コンクリートと同等以上の性能を持つことが示されました。これは、モジュール建築やプレハブ住宅の「構造用ブロック」としての実用化に大きく近づく成果です。
3.環境負荷の大半は“バインダーの出どころ”に依存する
LCA(ライフサイクルアセスメント)では、環境負荷の中心は塩化マグネシウムに集中していることが示されましたが、その一方で、これを工業副産物や海水脱塩廃棄物から調達すれば、カーボンフットプリントを大幅に削減できるという明るい展望も提示されました。
4.“本当のサステナブル建材”へ:バージン資源に依存しない循環型素材へ
本研究は、バージン資源(天然原料)に頼らずとも、高性能と持続可能性を両立できるという道筋を描いており、「真の循環型バイオ建材」へ向けた一歩と位置づけられます。将来的には、グリーン建築認証制度でも優位性を持つ新素材となる可能性があります。