イタリアの研究チームが革新的な繊維処理法を開発
イタリアの研究者チームは、産業用ヘンプの長繊維を持続可能かつ効率的に処理する新たな方法を発表しました。従来に比べて環境負荷を抑えながら、加工時間を大幅に短縮できるこの技術は、ヘンプ繊維の本格的な産業スケールアップに向けた重要な一歩となります。
この研究は、オランダの科学出版社エルゼビアが発行する学術誌「Industrial Crops and Products」に掲載されました。
繊維の分離に革命を起こすクリーンな代替法
ヘンプの加工において「レッティング(retitng)」は極めて重要な工程です。これは、繊維を茎の木質部分(ハード)から分離するプロセスで、伝統的には水や強力な化学薬品を用いて行われてきました。
しかしこれらの方法は、時間がかかり、資源を大量に消費し、環境への負荷も大きいという課題を抱えていました。
今回の研究では、自然界に存在する微生物を特定の組み合わせで用いることで、分解を加速し、化学薬品を一切使わず、使用水量やエネルギー消費も抑えた、よりクリーンで持続可能なプロセスが実現されています。
米国のコンサルタント企業Canna Markets Groupのジョセフ・キャリンジャー氏は、「こうした微生物システムが進化していけば、従来のレッティングに代わる持続可能で一貫性のある方法が、産業レベルで現実的になる」と述べています。
長繊維 vs. 短繊維──価値を分ける「長さ」の違い
ヘンプ繊維の価値と用途は、その長さによって大きく変わります。
長繊維は茎の外皮から丁寧に抽出され、1メートルを超えることもある高品質な繊維で、テキスタイルや断熱材、バイオ複合材、技術素材など、要求水準の高い市場で重宝されます。このため、精密な収穫と加工が必要で、設備投資もかかりますが、価格プレミアムが期待できる領域です。
一方で、短繊維(トウやファインファイバーとも呼ばれる)は、10cm未満の不規則で破砕された繊維片。高速なデコーティケーション処理で発生する副産物であり、単価は安いですが、不織布、射出成形プラスチック、動物の寝床材、マルチング材などの用途で活用されています。
実験では7〜14日で分離完了、品質も向上
今回の研究では、微生物を活用することで、従来の水レッティングの半分程度(7〜14日)という短期間で繊維の分離に成功しました。しかも、収量や品質を損なうことはなく、むしろ色は明るくなり、組成の均一性も向上。これにより、高付加価値市場への適合性がさらに高まりました。
商業化への展望と慎重な実装
さらに、研究では用いる微生物の構成をシンプル化しても性能が落ちないことも確認されており、実用性が高い技術として評価されています。
キャリンジャー氏は、「この生物学的レッティングは、環境にやさしくスケーラブルなヘンプ繊維処理法として非常に有望だ」と述べています。
ただし、温度、水質、使用するヘンプ品種など、結果に影響を与える要因も存在するため、商業的な導入には一定の検討が必要です。
この研究を実施したのは、イタリア・ナポリ大学フェデリコ2世の研究チームで、イラリア・ゼッツァ氏、シルヴィア・パスカーレ氏、マッシモ・ファニャーノ氏らが名を連ねています。
編集部あとがき
1. 微生物を活用した環境負荷の少ないレッティング技術が登場
化学薬品を使わず、水とエネルギーの使用量も抑えられる新しい微生物処理法により、従来の環境負荷の高いレッティングに代わる持続可能な方法が実用化へと近づいている。
2. 長繊維の市場価値を高める技術革新
短期間で高品質な長繊維が抽出可能となれば、衣料・断熱材・バイオ素材といった高単価市場への参入が加速し、より持続可能で利益性の高いビジネスモデルが実現する。
3. 商業規模での展開にも希望
用いる微生物の種類を絞っても効果が持続することが確認され、商業化へのハードルは低下。生産規模の拡大に伴い、従来技術では難しかった一貫性や効率性も確保可能に。
4. 実装には地域ごとの条件も要検討
気温や水質、ヘンプの品種といった条件に応じて結果が変化するため、各地域での実証実験やプロトコルの調整が、商業導入の成功に向けた鍵となる。