循環型ヘンプ繊維産業を構築する「Hemp4Circularity」
EUの支援を受けたイニシアチブのもと、フランス各地の生産者・加工業者・繊維メーカーが連携し、地域に根ざしながらも国際的なつながりを持つヘンプ繊維のサプライチェーン構築に取り組んでいます。
この取り組みは、EU全体で展開されている3年プロジェクト「Hemp4Circularity」の一環。2023年3月に始動したこのプログラムでは、栽培から収穫、脱繊、紡績、織布、リサイクルまでを包括する循環型かつ競争力あるヘンプ繊維バリューチェーンの構築を目指しています。
農家からメーカーまでをつなぐ広域連携
このプロジェクトには、フランス国内の私企業と公的機関が広く参加しています。オー=ド=フランス、ノルマンディー、アンジュー、南西部などの農家が、GNIS(全国種子技術機関)、Terres Inovia(農業技術研究所)、Interchanvre(産業用ヘンプ業界団体)からの技術支援を受けながら、輪作体系の中に再びヘンプを導入しています。
この取り組みに参加する老舗の紡績会社Safilinは、「フランスは農業技術の伝統、産業ノウハウ、そして価値観を共有する関係者たちを擁する、欧州におけるヘンプ繊維のリーダー候補である」と語ります。
同社は1778年創業の家業企業で、現在はフランス北部のベテューヌ、ポーランドのシュチトノとミワコヴォに工場を構えています。アパレルやインテリア向けのヘンプ繊維量産体制の構築を目指しており、投資、研究、人材育成、そして何より「ブランドと消費者の信頼」が不可欠だと強調しています。
伝統と技術革新が共存する現場から
今回のフランスにおける再興の動きの中心には、何世紀もの繊維技術を持つ老舗企業たちがいます。彼らは伝統技術を土台としながらも、現代的なサステナビリティの要請にも応えようとしています。
繊維の処理工程は、老舗企業La Chanvrièreが担当。繊維の繊細さ、長さ、均一性を最適化する最新の脱繊ラインを開発しており、これは高級テキスタイルには欠かせない要素です。
下流では、さまざまなテキスタイルメーカーが、ヘンプ糸を最終製品に仕上げています:
• Tissage de France:衣類およびインテリア用途の織布を展開
• Tissages d’Autan:職人技と技術革新の融合
• Lemaitre Demeestere:1835年創業、ラグジュアリー志向のヘンプテキスタイル
• Lepère Oursport:多様な用途に対応するニット地を製造
Hemp4Circularityはまた、知識共有・現地研修・フィールドツアーなども支援しており、農家・加工業者・ブランド・消費者すべてにメリットのある産業モデルを目指しています。
マシフ・サントラル地方でも試験栽培が進行中
全国的な動きと並行して、フランス中部のオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏でも、地域資源としてのヘンプの可能性を探るプロジェクトが進行しています。
リヨン拠点の団体「Aura Chanvre」の主導により、ロアンネとフォレの11農場が18ヘクタールの試験栽培を実施。伝統的農業が色濃く残るこの地域で、地域循環型のヘンプ繊維チェーンが構築可能かどうかを検証中です。
地元の織物メーカーであるLinderやTissages de Charlieuも、将来的な原料調達先としてこの試みに関心を示しており、このプロジェクトは今後5年間の試験期間を経て、本格始動が検討される見通しです。
編集部あとがき
今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。
1. EU主導の支援で、フランスのヘンプ繊維産業が再始動
「Hemp4Circularity」によって、栽培からリサイクルまでを含むヘンプ繊維の全工程において、フランス国内で持続可能な仕組みづくりが加速。農業と産業の連携が進んでいます。
2. 地域に根ざした多層的なサプライチェーン形成
農家、公的研究機関、伝統ある加工業者、ラグジュアリーブランドまでをつなぐ、地産地消型の“面”としての産業再構築が進行中。循環と品質の両立が重視されています。
3. 伝統産業が支える現代のサステナビリティ
200年以上続く企業が、最新技術や循環型モデルと融合しながら、サステナブルで高付加価値なヘンプ製品を開発。信頼と品質を土台に、新たな市場を切り拓こうとしています。
4. 地方独自の挑戦が「多極型モデル」構築へと導く
マシフ・サントラル地方の試験栽培のように、各地域が独自の条件で可能性を探る動きが広がっており、フランス全体で多様な地域資源型サプライチェーンが芽生え始めています。