・国際スポーツのドーピング検査はWADAが基準を作成
・21年改正で「濫用物質」というカテゴリーが初めて登場
・濫用物質によるドーピング違反は、出場停止が3か月に短縮
<前回記事のリンク>
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オリンピックと医療用大麻(3)最も基準が緩いスポーツは?
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オリンピックと医療用大麻(4)スポーツ用大麻という「新分野」を開拓しよう
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国際スポーツのドーピング検査はWADAが基準を作成
オリンピック&パラリンピックを含めたあらゆる国際スポーツ大会、競技団体の選手は、1999年11月に設立したWADA(世界アンチ・ドーピング機構)の国際規程に従って、ドーピング検査が義務付けられています。
WADA禁止表国際基準は、毎年10月に見直されて、翌年1月1日に最新版として施行されます。禁止表は、「常に禁止される物質と方法」と、「競技時に禁止される物質と方法」に大きく2つに分類されています。
このWADA禁止表には、
1.スポーツ・パフォーマンスの向上およびその可能性
2.健康に対する実際リスクまたは潜在的なリスク
3.スポーツ精神に反する
という3つの基準を満たすものがドーピング物質となります。
大麻関連は、競技時のみの規制物質としてリストされています。また、2018年の禁止表から、カンナビジオール(CBD)は、例外として削除されています。
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S8 カンナビノイド
競技会(時)に禁止される
この分類におけるすべての禁止物質は特定物質である。
このセクションの濫用物質:テトラヒドロカンナビノール(THC)
全ての天然および合成カンナビノイドは禁止される:
⃝大麻由来物質[ハシシュおよびマリファナ]および大麻製品
⃝天然および合成テトラヒドロカンナビノール(THCs)
⃝THCの効果を模倣する合成カンナビノイド
等
例外:カンナビジオール
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21年改正で「濫用物質」というカテゴリーが初めて登場
WADAの国際規程2015年版が改正され、2021年版が1月1日に発効されました。5年ぶりに改訂された新しい規程では、下記のように、スポーツの領域以外で頻繁に濫用される物質というカテゴリーができました。
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濫用物質
⃝2021世界アンチ・ドーピング規程の第4条2.3項は、“スポーツの領域以外で頻繁に濫用されるため禁止表において濫用物質であると具体的に特定される禁止物質”を濫用物質として定義した。
⃝濫用物質としてコカイン、ジアモルヒネ(ヘロイン)、メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA/“エクスタシー”)、テトラヒドロカンナビノール(THC)を指定した。
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このカテゴリーの物質は、スポーツのパフォーマンス向上とは無関係だが、ドーピング検査でしばしば引っかかる案件でした。そのため、ドーピング違反後の適切な制裁期間を巡る議論および調停にかなりの時間と労力がかかっていたのです。
選手側は、ドーピング検査が陽性となれば、違反が意図的でないことを証明できない限り、2年から4年間の大会出場の禁止となっていました。
これは、アスリートにとって公式の大会に出場できない期間として、あまりにもダメージが大きく、長かったのです。
濫用物質によるドーピング違反は、出場停止が3か月に短縮
そこで、主にコカインやヘロインを摂取するスポーツ選手に対して、薬物の問題を抱えている場合は「健康を優先する」という考えのもとで、今回の出場停止期間の短縮が実現しました。
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10.2.4
第 10.2 項の他の規定にかかわらず、アンチ・ドーピング規則違反が濫用物質に関するものである場合。
10.2.4.1
競技者が、摂取、使用又は保有が競技会外で発生したものであること、及び、競技力とは無関係であったことを立証することができた場合には、資格停止期間は 3ヶ月間とする。加えて、競技者又はその他の人が、結果管理責任を負うアンチ・ドーピング機関が承認した濫用物質治療プログラムを十分に完了した場合には、本第 10.2.4.1 項に基づき算定された資格停止期間は、1ヶ月間に短縮される場合がある。
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以前の2年から4年間の資格停止期間から3か月間は、大幅に短くなっています。治療プログラムへの参加で、1か月間とさらに短くなっています、
この「濫用物質」に、マリファナの主成分であるTHCがあります。しかし、この「濫用物質」のリストは、毎年更新され、追加及び削除がされることが規程でも明記されています。
今月1月には、総合格闘技のプロモーターである Ultimate Fighting Championship(UFC)と全米アンチ・ドーピング機構(WADAの米国組織)は、マリファナ陽性反応があっても、違反ではないと判断することに合意しています。2021年版が発効されたばかりですが、3か月の短縮どころか、そもそも違反としないという動きもでてきています。
現状では新しいルールのもとで、各競技が実施されますが、その裁量は各競技団体と、アンチ・ドーピング機構との現場の裁量に任されているともいえそうです。
ちなみに、NCAA(全米大学体育協会)の約23,000人から回答を得た2017年の最新調査によると、1年以内に摂取したことがある主な薬物は、アルコール(77%)、マリファナ(24.7%)、タバコ(13%)でした。マリファナの摂取目的は、77%の方が社交的な理由であり、19%の方が痛みの管理のためでした。
日本人にとってこの数字は、体調に人一倍気を使っているはずのアスリートにおいて、4人に1人がマリファナを摂取?と思うかもしれません。
各国で医療用大麻及び嗜好用大麻の合法化が進むと、スポーツのドーピング・ルールであるWADA濫用物質カテゴリーからTHCが削除される日くるかもしれせん。
引用
2021年世界アンチ・ドーピング規程
https://www.playtruejapan.org/code/provision/
WADA code 2021年禁止表国際基準
https://www.playtruejapan.org/code/provision/world.html
UFCは、マリファナがドーピング防止規則に違反しなくなったと判断
https://hightimes.com/sports/ufc-decides-marijuana-no-longer-violates-anti-doping-rules/