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エルゴジェニック・エイドというトレンド
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スポーツ科学の世界では、エルゴジェニック・エイドというキーワードがあります。ergogenic(運動量増加を)-aid(助ける)という意味をもち、競技力の向上をサポートする手段の総称のことです。
具体的には、マッサージ、メンタルトレーニング、酸素吸入、サプリメントなどが含まれます。中でも 注目を集めているエルゴジェニック・エイドは、パフォーマンス向上のために使用されるサプリメント(栄養補助食品)です。
国立スポーツ科学センター(JISS)によるサプリメント分類
国立スポーツ科学センター(JISS)によるサプリメント分類では、エルゴジェニック・エイドは、アミノ酸、クレアチン、カフェイン、ハーブなどが事例として取り上げられています。
これらの成分は、運動機能の向上に役立つ可能性があるとされていますが、まだ十分な科学的根拠がないものも含まれています。「スポーツ用大麻」は、大麻草=薬草=ハーブに位置づけられます。
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WADA基準(ドーピング検査)とエルゴジェニック・エイド
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オリンピックやパラリンピックをはじめとした国際スポーツの世界では、1999年に設立されたWADA(世界アンチ・ドーピング機関)のドーピング検査の基準となる禁止物質リストがあります。
毎年、新しい知見を踏まえて前年の10月に改訂版を発表し、1月から施行というサイクルでドーピング管理をしています。
禁止物質のリストは、下記3つの全てを満たす必要あります。
(1)スポーツ・パフォーマンスの向上およびその可能性
(2)健康に対する実際のリスクまたは潜在的なリスク
(3)スポーツ精神に反する
嗜好品のアルコール(エタノール)、コーヒー(カフェイン)、タバコ(ニコチン)、マリファナ(THC)で比較すると、ドーピング検査対象とエルゴジェニック・エイドの区別があいまいで、時代と共に変わってきているのがわかります。
アルコールは、長い間、特定の競技における禁止物質でしたが、2018年に対象外となりました。これはWADAドーピング検査項目から外れることを意味します。
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これまで禁止物質だった運転系の競技は、それぞれのスポーツ協会で、WADAに頼らず、独自に柔軟な運用ができることを意味します。
アルコールの検出は、呼吸器を使った簡単なテストでも実施できるので、WADAの指定する精密分析装置をわざわざ使う必要がなくなったのです。
ニコチンは、2005年のたばこ規制枠組み条約に代表されるように、世界的な禁煙運動が展開されています。
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トップ・アスリートで喫煙する人はすでに絶滅危惧種ですが、2012年にドーピング検査の監視項目のリストに追加しました。
これは、ニコチンが運動機能の向上に潜在的に効果があるかもしれないことが報告されているためです。一般常識としては信じがたいのですが、スポーツ医学の進歩はとても興味深いです。
カフェインは、長い間、国際スポーツの中で興奮剤として禁止物質でした。カットオフ値12μg/mlは、コーヒー8杯分のカフェイン量と同じでした。
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ところが、90%の人が摂取する一般的な嗜好品であるため、2004年からルールが変わりました。
但し、完全に対象外とはならず、監視対象になっており、毎回のドーピング検査の項目に存在しています。
最近の研究では、カフェインが運動機能の向上に役立つことに対して、十分な科学的証拠があると見なされています。
おそらく、禁止物質の条件の(2:健康に対する実際のリスクまたは潜在的なリスク)や(3:スポーツ精神に反するという基準を満たさない)と思われるので、禁止物質に復活する可能性は低いでしょう。
高濃度カフェインのエナジードリンクを飲むアスリートがいたとしたら別の意味で不自然ですけれど・・・
使用事例:学生アスリートの24.7%がマリファナを使用
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NCAA(全米大学体育協会)は、1,200以上の大学が参加し、競技に関わる選手の数は36万人もいます。世界最大の学生スポーツを統括する協会です。
4年に一度、学生アスリートのアルコール、タバコ、マリファナなどの薬物使用調査を行っています。
約23,000人から回答を得た2017年の最新調査によると、1年以内に摂取したことがある主な薬物は、アルコール(77%)、マリファナ(24.7%)、タバコ(13%)でした。
これは、アスリートではない一般学生のマリファナ使用(39.3%)と比較するとかなり低い値でした。
大麻ダメ・ゼッタイが当たり前の日本人から見ると、体調管理に人一倍気を使っている学生アスリートであっても約25%の方が摂取していることに少し驚くかもしれません。
摂取目的は、77%の方が社交的な理由であり、19%の方が痛みの管理のためでした。
(※:1年以内にマリファナ(THC)を摂取した学生アスリートの割合の推移青色:男性、橙色:女性、灰色:全数平均)
4年前の2013年と比べると、2017年の方が女性アスリートで摂取する人がやや増えていることがわかります。
ちょうど、コロラド州およびワシントン州が2014年から嗜好用大麻を合法化し、その後も11州まで増えてきた時期と重なります。
スポーツ用大麻という新分野
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マリファナの主成分のTHCには、精神活性、ストレス軽減、食欲増進、痛みの緩和、神経保護、制吐などの作用があり、一方で陶酔作用がないCBDには、ストレス軽減、痛みの緩和、神経保護、抗炎症、抗けいれん、抗酸化などの作用があります。
ハーブ(薬草)なので、テルペンやフラボノイドといった精油成分もあり、THCやCBDなどのカンナビノイド成分との相乗効果(専門的にはアントラージュ効果という)も期待されています。
特にCBDは、2018年から国際スポーツ大会のドーピング検査の対象外になったことから、アスリートの間で注目されています。
カリフォルニア州のCBDユーザーで「自分で非常によい改善」または「自分で中程度によい改善」を報告した病状の数(n = 2557)の研究によると、慢性の痛み、関節痛、不安、不眠が上位4つとなっています。
(※回答者が病状別にCBDが「自分で非常によい改善」または「自分で中程度によい改善」を報告した病状の数(n = 2557)
これらの上位4つは、アスリートが直面しやすい症状であり、その症状改善にかなり役立ちそうです。
スポーツと大麻に関する臨床報告はまだまだ少ないですが、研究及び実践例が増えるにつれて、治療でも娯楽でもない新分野ができそうです。
合法化が進むと、アスリートの世界だけではなく、一般人がスポーツを楽しむレベルおいても、エルゴジェニック・エイドや体調管理にも日常的に使うものになる可能性を秘めています。
このように考えると、スポーツ用大麻という新分野がありそうです。将来的にマリファナ(THC)がカフェインのようにWADAドーピング検査基準の対象外になると、さらに注目度があがるかもしれません。
このオリンピックと医療用大麻の4回連続の記事を通じて、スポーツ用大麻という新分野の可能性について少しでも関心をもっていただきたいと思います。
参考:
カフェイン、ニコチン、エタノール、およびテトラヒドロカンナビノールの運動パフォーマンスへの影響
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3878772/
THE HISTORY OF DOPING AND ANTIDOPING A systematic collection of published scientific literatur 2000-2015
NCAA学生アスリート薬物使用研究:
http://www.ncaa.org/about/resources/research/ncaa-student-athlete-substance-use-study
A Cross-Sectional Study of Cannabidiol Users (2018)