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ヘンプ飼料=安全は幻想!?牛肉サプライチェーンに突きつけられた“花部リスク”という現実

目次

牛の飼料に用いる際の食品安全リスクを指摘

新たに発表された査読付きの牛飼料研究が、工業用ヘンプの植物上部(トップス)を家畜飼料として利用すること、とりわけ牛肉生産分野における潜在的なリスクに警鐘を鳴らしている。

この研究は、ロンドンを拠点とするネイチャー・ポートフォリオ誌の学術誌「Scientific Reports」に掲載されたもので、産業用ヘンプの花や葉を多く含む部位(インフロレッセンス)を牛に与えた場合に何が起こるかを検証した。これらの部位は、植物中で最も高濃度のカンナビノイドを含む部分である。

研究結果は、肉や脂肪中にカンナビノイド残留が長期間続く可能性を示しており、一部のヘンプ由来飼料について、規制承認、法的責任、そして市場での受容性を複雑にする要因になり得ることを示唆している。

循環型経済の一環としてヘンプ由来副産物の飼料利用を検討する加工業者、飼料供給業者、牛肉生産者にとって、この研究は「すべてのヘンプ廃棄物が商業的に同等ではない」ことを示している。

異なる派生物

ヘンプシード、シードミール、茎部は、カンナビノイド含有量が極めて低く、これまでの研究でも同様の残留リスクは示されていない。これらの素材は、植物上部とは構造的・化学的に異なり、規制上も比較的低リスクな飼料原料として扱われてきた。

ビジネスの観点から見ると、非常に長い休薬期間(出荷前の飼料停止期間)が必要となる場合、カンナビノイドを多く含むヘンプ花部を牛の飼料として使用する経済合理性は大きく損なわれる。

ただし、これらの結果は「ヘンプ飼料全体」を否定するものとして解釈されるべきではない。

実務的には、本研究はヘンプ飼料市場における分化の進行を裏付けるものといえる。すなわち、種子や繊維由来の素材は引き続き実用的である一方、花部や抽出後バイオマスは、はるかに高い規制・評判リスクに直面するという構図である。

試験内容

Scientific Reports に掲載された本研究では、20頭のホルスタイン種去勢牛に対し、14日間にわたり工業用ヘンプの花と葉を含む飼料を毎日与えた。摂取量は、体重1キログラムあたり約4.2ミリグラムのカンナビジオール酸(CBDA)に相当する。

ヘンプ給与を停止した後、肝臓、腎臓、筋肉、脂肪の各組織を数日間にわたり採取し、体内からのカンナビノイド消失過程を追跡した。

その結果、ヘンプ給与終了後も複数のカンナビノイドが牛の組織内に残留することが確認された。デルタ9-THCは低濃度ながら肝臓、腎臓、脂肪組織に検出され、CBDおよびその他のカンナビノイドはすべての採取組織で確認された。

特に食品安全および法令遵守の観点で重要なのは、脂肪組織からのカンナビノイド消失が非常に遅い点である。最も保守的な指標としてCBDを用いた場合、残留量が無視できる水準まで低下するには、最大で約5か月の休薬期間が必要になる可能性があると推定された。

また、最悪想定の消費者曝露モデルでは、こうした牛の脂肪を乳児が摂取した場合、国際的に保守的に設定されたTHCの急性参照用量を超える可能性が示された。これは仮定上のシナリオではあるが、規制当局が重視するタイプの評価である。

業界への影響

短期的に想定される影響として、業界は以下の点に直面する可能性がある。

・ヘンプの花部および抽出後バイオマスを家畜飼料として使用することへの規制監視の強化

・植物部位やカンナビノイド含有量に基づく、飼料用ヘンプ原料の明確な区分管理の必要性

・カンナビノイド含有素材を使用する牛肉生産者における、法的責任や保険リスクの増大

・より低用量条件や乳牛を対象とした追加研究への需要拡大

本研究チームには、米国におけるヘンプ家畜研究を主導してきたカンザス州立大学の研究者が含まれており、さらに米国食品医薬品局(FDA)獣医学センター(CVM)に関係する研究者や、獣医学・規制科学分野の専門家も参加している。

編集部あとがき

今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。

1. ヘンプの「どの部位か」でリスクは決定的に変わる

研究は、ヘンプ植物上部(花・葉)が他の部位と本質的に異なることを明確に示した。種子・茎は低リスクだが、カンナビノイドを多く含む花部は、食品安全上まったく別カテゴリとして扱う必要がある。

2. 牛の脂肪に残る“長期残留”が最大の問題

CBDやTHCは給与停止後も脂肪組織に長く残留し、完全に無視できる水準に下がるまで最大5か月を要する可能性が示唆された。これは牛肉生産の現実的なオペレーションと相容れない。

3. 「循環型利用」は規制・責任リスクと表裏一体

ヘンプ副産物の飼料利用は循環経済の文脈で注目されてきたが、花部や抽出後バイオマスについては、規制強化・保険・訴訟リスクを伴う領域に入る可能性が高い。

4. ヘンプ飼料市場は“分断”の時代へ

今後は

・種子・繊維系=実用・低リスク

・花部・高カンナビノイド系=高規制・高リスク

という明確な市場分化が進む。

「ヘンプは一括りにできない」という前提が、事業設計の出発点になる。

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HempTODAYJAPAN編集部です。HemoTODAYより翻訳記事中心に世界のヘンプ情報を公開していきます。加えて、国内のカンナビノイド業界の状況や海外の現地レポートも公開中。

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