国立精神・神経医療研究センターと民間団体が日本初の大規模調査を実施
【研究成果のポイント】
◆大麻使用者の95%が就労・就学・家事などの社会的機能を果たしていることが示された。
◆大麻依存症に該当する恐れのある使用者は大麻経験者の8.3%であることが示された。
◆国内の大麻使用者を対象とした初の大規模調査。大麻政策議論の土台となることに期待。
【概要】
一般社団法人Green Zone Japanの正高佑志医師と国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦 薬物依存研究部部長らの研究チームは、日本国内で違法大麻を使用した経験者を対象とした匿名のオンライン調査を実施し、大麻による健康被害の罹患率を初めて明らかにしました。 本研究成果は、国内の査読学術誌である『アルコール・薬物医学会雑誌』に12月24日に掲載さ れます。
【研究背景】
大麻は日本では違法薬物として規制され、違反者には5年以下の懲役が課されます。しかし近年、欧米諸国を中心に規制見直しが進み、カナダや米国18州では嗜好目的の利用を含めた合法化が実施され、2020年には国連麻薬委員会でも安全性の見直しとともに、医療用途が承認されました。国内でも大麻由来成分を含有する医薬品を使用可能とする動きが本格化する一方で、新たに大麻使用に罰則を設ける大麻使用罪の導入が検討されています。 これに対し一部の有識者からは、司法介入の社会的被害は大麻の健康被害を著しく上回っており、逮捕・投獄することは更生につながらないと反対の声が上がっています。 大麻の厳罰化の是非を検討する上で、日本国内で大麻による依存症や精神障害などの健康被害がどの程度の頻度で発生しているかなどの基礎調査はこれまで実施されたことがありませんでした。
【方法と結果】
今回、過去に1回以上大麻を使用した経験がある者を対象とし、オンライン調査フォームを設置 し、Facebook、Twitter、YoutubeなどのSNSを用いて回答を依頼したところ、4138件の有効回答が得られました。回答者の82%は男性、平均年齢は32歳であり、95%が日常生活において、就労、就学などの社会的機能を果たしていました。 大麻依存症の可能性があると判断されたのは全体の8.3%でした。妄想や嘔吐などの一過性の不快体験は38.5%に認められましたが、何らかの救護を要するものは0.1%に留まりました。また 大麻使用を契機とした慢性の精神症状(幻覚など)を訴えたのは1.3%でした。
【本研究成果の意義】
この結果は大麻の健康への悪影響が従来考えられているよりも低いことを示すものであり、大麻使用者にとって最大の害は刑罰であることを示唆する結果です。類似の検証結果を参考に諸外国では大麻の厳罰方針は変更されています。本研究は日本における薬物政策の立案において重要な意義を果たすと考えられます。
国立精神・神経医療センター・松本俊彦部長のコメント
これまでわが国には、大麻使用の健康被害に関する大規模調査が存在せず、精神科医療にアクセスした極めて稀少な、偏った症例報告をもってその健康被害が論ぜられてきた。インターネット調査という限界があるものの、画期的な大規模調査であり、本研究から得られた知見を無視することはできず、わが国の薬物政策の企画・立案にあたって重要な基礎資料としての価値がある。
【研究責任者プロフィール】
正高佑志 (まさたかゆうじ)
1985年生まれ。熊本大学医学部医学科卒。 医師。日本臨床カンナビノイド学会理事。大麻についての啓発団体「一般 社団法人 Green Zone Japan」代表理事。
2020年に大麻由来のサプリメン ト(CBDオイル)が国内の難治てんかん症例に有効であったことを学術的に報告し、国内での治験に向けた取り組みの端緒を開いた。著書に「お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社 2021年)」がある。
【掲載論文についての詳細】 タイトル:SNSを活用した市中大麻使用者における大麻関連健康被害に関する実態調査第一報
著者: 正高佑志(研究責任者)、杉山岳史、赤星栄志、松本俊彦
掲載誌:日本アルコール・薬物医学会雑誌56巻4号(通巻第288号)
発行:一般社団法人 日本アルコール・アディクション医学会
ISSN:1341-8963