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解説:(株)伊勢麻 松本代表・新田均 皇學館大学教授らが県の不許可決定に不服申し立て

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Yosuke Koga

3年前から三重県伊勢市で、伝統産業としての大麻草栽培と精麻の製造を行ってきた(株)伊勢麻が、昨年末に県から「製品の県外出荷は認められない」として不許可となった問題で、15日に(株)伊勢麻は、三重県庁において行政不服審査会に対し、科学に基づく論理的で公正な審査を求めて意見書を提出し、記者会見を行いました。

 

少々難解ですが、風前の灯となりつつある日本の大麻産業の未来を見通す上で、一人でも多くの方に知っていただきたい非常に重要な問題です。

 

HTJは、(株)伊勢麻の代表として会長の松本さんと、皇学館大学・現代日本社会学部長の新田教授にお話を伺ってきたので、一緒に紐解いてみましょう。

上の動画は、ほんの一部です。
記者会見の全編ノーカットはコチラ。

一度、記事を全部読んで頂いてから視聴していただけると、解りやすいと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=iMnUXcyQ9hI&feature=youtu.be&ab_channel=HempTodayJapan

目次

風前の灯火「伝統」

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精麻の様子。ひたすら大麻草の表皮からオアカと呼ばれる不純物を削ぐ作業が続く

 

(株)伊勢麻は、平成30年から三重県伊勢市で大麻草の栽培を行ってきました。その目的は、

・伝統産業としての大麻栽培、及び精麻製造加工技術の保護及び継承

・神事に使用される大麻の国産原料供給を通じた、日本固有の信仰である神道の保護

 

の2つです。これらは、多くの方々には見えにくい問題ですが、どちらも非常に憂慮すべき状況にあります。

1つ目の大麻栽培ですが、現在全国には30数軒ほどの大麻栽培者が存在していると言われていますが、精麻(伝統的製法で作られた大麻繊維)を生産している麻農家は十数軒となっており、その殆どで高齢化が進んでいます。

40代以下の、これからを担っていく若い栽培者は、HTJの知る限り、今回取り上げている(株)伊勢麻の代表である谷川原さんを含めても、なんとたったの3人しか居ません。このままでは、10年後には日本の大麻農家の数は一桁にまで落ち込み、20年後には確実にゼロになってしまうでしょう。

 

2000年以上続いてきた日本の大麻栽培は、今、まさに風前の灯火です。

その原因は、新規栽培者免許がほとんど発行されていないからで、その根底には、行政の「盗難や成分の濃縮などによって大麻が流出するなどのトラブルを避けたい」という無用な危惧と硬直した姿勢が透けて見えます。

なぜ、それが無用な危惧なのかと言うと、「日本で合法的に栽培されている大麻草は、麻薬になり得ない」からです。

日本で合法的に栽培されている大麻草は、それらの品種には精神作用を引き起こすほどの陶酔成分THCを生成する能力が遺伝的に無い事が分かっています。

加えて、日本で繊維用に栽培されている大麻草は、大麻草が一番THCを分泌する段階である開花時期に至る前に収穫されてしまいます。なぜなら、開花時期まで到達した大麻草の表皮は硬くなってしまうため、繊維として製品にならないのです。

つまり、仮に盗難などが起こったとしても、それが市中に麻薬として流通する事は、絶対にあり得ないわけです。

 

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同様に、成分の濃縮などを行っても、麻薬として使用できる製品の製造は不可能で、この件に関しては、監督官庁である厚生労働省が実際に実験を行って、明確にその可能性を否定する論文を発表しています。

この上記の論文の最後では、

無毒大麻と言われている とちぎしろ から微量ではあるが THC が検出されたが、CBD の方がより高濃度含有されていた。また、ブタンガスを用いることで、とちぎしろの葉から THC、CBD を効率良く抽 出することが可能であった。調製した BHO(*ブタン・ハッシュ・オイルの略。ブタンガスを使用してカンナビノイドを抽出したオイル) 中の CBD 含有量は幻覚成分の THC よりも 5 倍以上高く、仮にとちぎしろなどの繊維型大麻草から製造し た BHOを摂取したとしても、THC による幻覚作用は、ほとんど得られないことが推察された

引用元:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jafst/25/1/25_763/_article/-char/ja/?fbclid=IwAR0h2yLtNUyCFHj_kV_zJcVT3Yjp-F1dwY4A1V3RyJ5ZD1Himp7hR4iVj2w

と結論付けています。CBDには、THCの効果を相殺する働きがあるため、とちぎしろのようなCBDの含有比率がTHCに比べて圧倒的に高い品種では、仮に成分を濃縮しても精神作用を得る事ができない、と執筆者である厚生労働省麻薬取締部の鑑識官は言っているのです。

 

つまり、麻薬としての流用を危惧して、大麻栽培免許の交付を渋る事は、論理として破綻しています。

信仰の根幹となる「清浄のシンボル」大麻草

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筆者が購入した伊勢神宮のお札。その名を「神宮大麻」という。
中央に巻かれている金色の繊維が、大麻草の表皮である「精麻」。

 

神社の注連縄は、主に稲わらなどの天然繊維で作られていますが、大麻草はその素材の一つであるという事を御存知でしょうか?

その他、お参りした時にガラガラと鈴を鳴らす時に引っ張る縄(鈴緒)や、神主さんがバサバサと振る祓い具から、横綱の巻いている綱、果ては天皇が即位する大嘗祭という儀式で使用する麁服(あらたえ)」まで、神事の様々な場面で精麻は使われています。

 

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出来上がった精麻。長さや幅まで整った純粋な繊維は、金色に輝いて美しい。

 

「実は、神道には、他の宗教のような明確に教義と言えるものは無いのですが、清浄さと正直さという概念は、とても大切にされています。」と松本さんは言います。

「神社神道では、麻は穢れを祓い寄せ付けない力があるものとされています。その清浄のシンボルとも言える麻が、今、行政の非科学的、非合理的な硬直した規制により、危機に瀕しています。」

戦後のGHQの指導によって大麻草の取り締まりが始まって以来、日本の大麻生産量は下降の一途をたどっており、いつしか神社の需要を満たす事すらも、ままならなくなりました。そこに、外国産の精麻が入り込んできたのです。

「外国産だから悪い」という事ではありませんが、日本の精麻と外国産の大麻繊維には、長い年月をかけて完成された技術と、その為に交配を繰り返して作り出された精麻専用の品種という違いがあります。

 

筆者もこれまで、精麻を度々目にしてきましたが、日本産の精麻、特に「特級精麻」と呼ばれるものは、横にピンピンと飛び出した無駄毛も無く、繊維も均一で本当に美しい仕上がりで、当然それだけ粒の揃った繊維は切れにくいという特徴があるのです。

 

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本当ならば、今ごろ愛知県内の神社へと出荷されていた筈の精麻。
これが県境を超える事に何の問題があるのだろうか?

 

しかし、残念ながら先述のように日本産の精麻の生産量が落ち、価格が高騰した事から、中国産の精麻を使用する神社が増えていると言います。中国産の精麻は、国産精麻と製法が違い、化学薬品を使用しているため切れやすいと言います。また、注連縄、鈴緒など精麻を大量に使用する神具には、ビニール製の模造品を使用せざるをえないという、まさに末期的な状況となっています。

「式年遷宮」という儀式を御存知でしょうか?日本の神々は清浄であるものを好む、と信じられている事から、伊勢神宮や出雲大社などでは、本殿と全く同じ建物を隣に建てて、定期的に神様に「新居へのお引越し」をしてもらうという儀式です。こうした、古いものを刷新することによってリフレッシュするというアイディアは、毎年お守りを神社に返納し、新たに買い直すという我々一般人の行為にも反映されています。

 

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天照大神を祀る伊勢神宮・内宮。
そのお膝元で作られた精麻なら、全国の神社が喜んで使いたがる筈なのだが。。

 

こうした、神道を通じて日本人のメンタリティの奥深くまで浸透している『清浄』と言う概念のシンボルとも言える麻(大麻草)を、事もあろうに、数百年経っても土に還らない石油化学製品と置き換えてしまうなど、決してあってはならない事です。

本来、氏子である私たちが栽培し、感謝の気持ちと共に奉納した大麻草を使ってこそ、そこで行われる神事において、神々と我々との繋がりが生まれるのでは無いのでしょうか?

 

これは日本固有の信仰である「神道」の根幹に関わる問題なのです。

日本の為に - 時系列 –

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伊勢麻の作業所では、整然と並べられた精麻やオガラが出荷を待つ

 

ここまで見てきたように、今、日本の大麻草を取り巻く問題は、非常にシリアスな状況を迎えています。

こうした問題を解決するべく、伊勢麻振興協会が発足。約4年間の準備期間を経て、2018年に栽培免許を取得し、伊勢の地で大麻栽培、精麻生産が始まりました(初年度は協会が栽培加工を行い、現在は協会の監督指導の下で(株)伊勢麻が実施)。

この時、県の薬務課の担当者との協議では、県外への販売を求めて反発したものの、免許の不許可をチラつかされた為、結局「実績を重ねながら段階的に県内の神社、そして県外の神社、神社祭祠以外の伝統産業の需要へも応えていけるよう進めていく」県の提案が示された事で伊勢麻が折れ、同意します。

翌年には愛知県の神社から購入の打診を受け、県が約束を守ると信じた伊勢麻は、三重県全域の神社と愛知県からのオファーを併せた見込み収量で免許を申請し、県にも当初から県外への出荷を伝えた上で調整を進めていました。

 

この時点では、県との協議は好感触だったと言います。

 

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HTJに顛末を説明する皇學館大学の新田均・現代日本社会学部長

 

「ところが、栽培免許の申請書を提出し、県から申請内容についての修正指示である『補正』に対応している段階(通常であれば、補正で指示された内容に対応すれば許可される)で、突然私のところに県の薬務課の三木次長がやって来たのです。」と、伊勢麻の顧問である新田教授は言います。

「そして、『厚労省が(県外の需要に応える事を)どうしても認めてくれない。今回の申請は不許可となります。県内の需用量に限定したもので申請し直せば許可するので、再申請してください』と告げられました。」

精麻生産者にとって、県外への供給ができないということは、農業として継続性を絶たれることと同意であり、又、県外への供給も段階的に認めていくという同意事項を一方的に反故にすることで、納得できる説明ではありませんでしたが、「栽培免許の空白があると、種を保持する理由を失い、種を処分してもらう可能性もある」と言われ、泣く泣く従わざると得ませんでした。

これは、明確な脅しです。なぜなら、種子を破棄させられたなら、次のシーズンの栽培の道が断たれてしまうからです。

 

この出来事には、看過できない重大な問題があります。それは、地方自治の根幹に関わる問題です。

本来、大麻栽培免許とは、各都道府県知事によって発行されるものであり、国は何も関与するものではありません。ですから、『厚労省が認めてくれない』と言う弁明を自治体職員が口にしたというのは、国による直接系な越権行為、もしくは圧力を匂わせる示威的行為があったか、自治体が国に忖度したかの、どちらか一方である事を意味します。

 

そこで、新田教授は厚労省に事実関係の確認を入れます。ところが、厚労省側はこれを明確に否定したため、その内容を、担当職員に伝えると、『なぜ本当の事を厚労省なんかに話しちゃうんですか!』と取り乱したと言うのです。

この件に関して、いつか担当者の口から事実が語られる事を願います。

そして、県は正式な不許可の理由に「厚労省が認めないから」と書けるわけもなく、『県内の神社神道の祭祠の継承を目的とした大麻栽培によって得られる社会的な有用性と、その大麻栽培によって生じる保健衛生上の危害発生のおそれ』と、『県外出荷向け製品を製造するための同内容のリスク』を比較評価をした結果、

県外の神社神道の祭祠の継承を目的とした本県での大麻栽培については、大麻栽培によって生じる保健衛生上の危害発生のおそれを受容するまでには至らない

と言う、明らかに後付けの理由を、「正式な」不許可理由とします。

「これは全く受け入れられません。なぜなら、前年に申請した畑と、この年に申請した畑は同じ場所です。防犯対策の意味では、条件は全く同じであるはずです。それを『県外出荷分の大麻を栽培すると危害発生のリスクが増大する』と言うのは、意味を成しません。全くの詭弁です。」と、松本さんは言います。

ここで語られている『危害発生』と言うシナリオですが、この記事の冒頭で読んで頂いた通り、日本で栽培されている大麻草には精神作用を起こす成分が作れないわけですから、そのような『危害』自体が、そもそも存在し得ない事が科学的に証明されているのです。

 

こうした理由で不許可の通知を受け取った伊勢麻は、この年も泣く泣く県外への出荷を諦め、引き換えに免許を取得しています。

そして今月22日、行政不服審査会へ

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意見書を、県の文書課へ提出する松本さん

 

この出来事にショックを受けた伊勢麻は、今年3月に三重県に対し、もう一度県外出荷を可能にするべく再審査請求を提出し、この求めに応じて三重県医療保険部の職員である中井氏が審理員として任命され、審理員意見書を11月16日付けで知事に提出しました。

 

しかし、この審理員と言う制度自体が問題だと松本さんは言います。

「こうして、審理員が県を評価していると文章で読んだ方は、第三者委員のようなものを想像するかもしれませんが、実際は全然そんなものではありません。なぜなら、この評価を受けている三木次長は、任命された審理員である中井氏の直接の上司なのですから。そんな上下関係にある人間が、相手の事を公平に評価できると思いますか?こんなものは、外部の人間がやらなかったら意味はありません。」

 

そして、問題は制度だけではありません。不許可の決定を下した、県の主張を裏付ける資料として提出された論文は、その一部だけを抜粋され、趣旨を曲解して使用されていると言うのです。その論文とは、この記事の最初に御紹介した『とちぎしろからは麻薬は作れない』と言う、あの論文です。

 

松本さんは、「県は、あの論文の中に書かれている

とちぎしろの葉を用いることでTHC及びCBDを効率よく濃縮し、BHOなどの大麻濃縮物を製造することが可能であることが示唆された

と言う一部分だけを抜き取って、その後に続く

とちぎしろなどの繊維型大麻草から大麻濃縮物を製造し、それを乱用目的で使用したとしてもTHCによる幻覚作用はほとんど得られないと考えられた

と言う結論部分を意図的に無視しています。

その抜き取った一文に、「大麻草の成分は、化学的に単離し、麻薬を製造する事が可能である」と言う1968年に書かれた論文を併せて解釈し、「繊維型大麻草からも麻薬の製造は可能」と言う結論を無理やり導き出しています。これは、あまりに非論理的で、論文の執筆者の趣旨の真逆の主張であり、科学に対する挑戦と言っても過言ではありません。」と説明します。

「そもそも、この50年以上も昔に書かれた論文で示されている大麻成分の単離を行うには、化学的反応を起こすための巨大な装置と、膨大な量の原料が必要で、仮に密売人が繊維型大麻から麻薬を製造して利益を得ようとしても、回収が不可能な設備投資が必要です。誰がそんな経済的合理性のない事をやる、もしくはやれるというのですか?理論として可能であると言う事と、実際にそれが可能であるかは、必ずしも同一ではありません。」

審理員がまとめた報告書は、身内の詭弁ともいえる主張を、なんら深く調査、検証することなく、追認しただけのもので、審査員としての使命を放棄した組織的隠ぺいともいえる行為です。再審査請求制度、行政(三重県)そのものの信頼性を損なうものです。

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伊勢麻の松本会長と、代表の谷川原氏

 

今回の意見書の提出を通して、何を希望しますか?と言うHTJの問いに、松本さんは、

「もちろん私たちは、県外への出荷を可能にしたい。しかし、今回の再審査請求と、それに係る今回の意見書提出は、今後この伝統産業としての大麻栽培に参入して来ようと希望する若い人たちに対し、『非科学的かつ非論理的な理由で免許を不許可になった』と言う前例を作らない、負の遺産を残さないと言う、未来の世代への私たちの使命、そして責任の問題です。
22日に行われる審査会では、行政の方々にも、我々と同じ責任感を持って臨んでもらう事を希望します。

と、静かに語りました。

 

地元の伊勢新聞によると大麻栽培の許認可に関する事務を担う薬務感染症対策課は取材に「今のところ不許可にした理由に変更はなく、説明を続ける必要があると考えている。行政不服審査会の結果などを踏まえて今後の対応を検討したい」と回答しています。

そもそも栃木などの大麻草の栽培を行っている県では、他県への出荷が問題として取り沙汰されたされた事は一度も無く、また、実際にそれが原因で問題が起きた事もありません。

三重県は、一体何を問題としているのでしょうか?

未来への明るい遺産が残せるのか。あと4日です。

 

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AUTHORこの記事をかいた人

Yosuke Kogaのアバター Yosuke Koga HTJ 編集長

1996年カリフォルニアで初の医療大麻が解禁。その5年後に現地へ移住し、医療大麻の家庭栽培、薬局への販売などの現場や、それを巡る法律や行政、そして難病、疾患に対し医療大麻を治療に使う患者さん達を「現場」で数多く見てきた、医療大麻のスペシャリスト。

10年間サンフランシスコに在住後、帰国し、医療機関でCBDオイルの啓蒙、販売に従事し、HTJのアドバイザー兼ライターとして参画。グリーンラッシュを黎明期から見続けてきた生き証人。

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