北海道において、「ヘンプを次期基幹作物に」と活動を行っている、私ども北海道ヘンプ協会(HIHA)が、今年11月11日(水)~13日(金)に農水省主催の「アグリビジネス創出フェア」へ出展する事となりました。 今年は、オンラインでの開催となりましたので、皆さま是非ご参加ください。 この出展に際し、これまでの当協会の取り組みを、ここHTJでも全3回のシリーズで振り返って御紹介いたします。今回は、その第2回目です。 第1回目の記事:https://hemptoday-japan.net/9143/
法改正進み、産業用ヘンプの機運高まる
大麻草には、前回紹介した陶酔性の薬理成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)が少ない産業用大麻(ヘンプ)が属する繊維型品種の他に、THCの含有量の多い薬用型品種があり、後者は、医療用大麻と嗜好用大麻に分類される(表1)。
医療用大麻は1996年にアメリカ・カリフォルニア州で初めて合法化され、今では全米33州とカナダ、イスラエル、オランダなど30か国以上でさまざまな疾患の治療に用いられている。また、嗜好用大麻は2013年にウルグアイ、2014年にはアメリカのコロラド州とワシントン州で合法となり、その後全米11州まで拡大。2018年にはカナダが先進国で初めて合法化した。これらの嗜好用大麻はタバコやアルコールと同様に課税管理され、国や地方政府に大きな税収をもたらしている。
産業用ヘンプも薬用型の大麻と同様に、戦後は旧ソ連などの共産圏とフランスなど一部の国をのぞいて、ほとんどの国で栽培が禁止されていたが、1990年代以降、環境意識と健康志向の高まりから、まずEUとカナダで合法化された。この結果、従来の繊維製品に加えて、食品、サプリメント、化粧品、断熱材など建築材、自動車内装材、飼料、敷料、医薬品など新たな利用が進み、近年、各国で栽培が急速に増えている。
こうした国々では産業用ヘンプをTHC濃度によって定義し(表2)、免許制度によって栽培や加工販売などが厳しく管理されている。
今回は、日本になじみの深いアジア3カ国とアメリカの状況について紹介する。
【中国】衣料品向けに雲南、黒龍江省で推進
古くからヘンプを栽培・加工し、衣料に使ってきたが、80年代に工場への投資があまり行われず、設備更新のないまま廃業となるケースが多かった。しかし2008年に推奨国家標準でTHC0.3%未満を低毒大麻と定義し、2010年には雲南省が同様の条例を定め、栽培を奨励し始めた。
同省では、人民解放軍の研究所と中国衣料メーカー大手のヤンガー社が共同で近代的な大規模紡績工場を建設し、ヘンプ衣料品を製造販売する。最近では、北米向けにCBD原料の輸出にも力を入れている。
黒龍江省では2017年にヘンプ振興条例が制定され、公的機関における育種研究など省を挙げて衣料品や食品用途での産業化を目指している。現在、同省のヘンプ栽培面積は約2万6000haである。
当協会は2018年に黒龍江省視察ツアーを実施し、同省科学院大慶分院のヘンプ研究、広大なヘンプ畑での収穫作業、紡績用繊維の加工会社などを視察した。なお、同省のヘンプ産業振興条例は北海道で産業用ヘンプの普及を目指す上でたいへん参考になっている。
北海道ヘンプ協会は、黒竜江省科学院と技術協力協定を締結
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【韓国】戦後激減も食品、医薬品の輸入解禁
日本と同様、戦後の1948年にアメリカの政令によって大麻の規制が始まった。1960年代までは伝統的な繊維型大麻が衣料用として6000haほど栽培されていたが、1976年にすべての大麻草を規制する大麻管理法が制定されたが、その後も伝統的な大麻栽培は続けられ、無形文化財の安東布(アンドンポ)が有名である。
しかし、2007年以降、火葬の普及によって死装束用の大麻布の需要が減り、栽培面積が十数haにまで激減してしまった。そこで2000年に創業したヘンプ・コリア社は、中国産のヘンプ原料を用いて、ヘンプ衣料や化粧品を製造販売するとともに、韓国式の「ヘンプサウナ」を全国50カ所以上に展開し、美容と健康に良いというヘンプのイメージアップに貢献している。
2015年には韓国・カナダ自由貿易協定(FTA)が発効したのに伴い、食品のTHC濃度基準を0.2~5ppmに定め、ヘンプ食品(麻の実)の輸入を解禁し、一大ブームとなった。また、2018年には、東アジアで初めて大麻に由来する医薬品の輸入を可能とする麻薬類管理法の改正が行われ、その結果、国内での大麻栽培の規制緩和をもとめる動きが広まりつつあるようで、隣国のこうした動向から目を離せない。
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【タイ】北部で栽培免許 2019年に医療用も合法化
医療大麻啓発イベントで子供達と記念撮影するアヌティン副首相
タイの山岳地帯に住む少数民族のモン族は、ヘンプの民族衣装で知られる。2005年からタイ王室の保護の下、モン族のヘンプ栽培の技術向上のため、関係機関による研究支援が行われた。
約10年間の取り組みを踏まえ、2016年には、麻薬法に基づく公衆衛生大臣の省令によって、THC濃度1%未満の大麻を産業用ヘンプと定義する栽培免許制度を整えた。これは少数民族に配慮した家庭用栽培免許と国内産業育成の観点から法人免許にはタイ人比率の規制を設けたのが特徴で、タイ北部の15県で栽培免許を交付することにより、約5000haの栽培を目指した王室プロジェクトを成功に導いた。
2019年には医療用大麻も合法化。タイの伝統医療を重視しつつ医療観光産業の振興も視野に入れ、外国資本に対抗できる国内企業を保護育成中である。今やタイはヘンプ産業の成長がもっとも注目される国の一つである。
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【アメリカ】研究用から5年、世界最大6万ヘクタールに
戦後、世界の大麻規制を主導してきたアメリカは、前述のように医療用大麻に限らず嗜好用大麻までもが一部の州では合法化されているが、産業用ヘンプについては、1970年成立の規制物質法によって、大麻草はスケジュールⅠ「最も危険性が高く、医学用途なし」と位置づけられていたため、実は商業栽培が全くできなかった。しかし、2014年の産業用ヘンプ農業法(連邦法)により、大学などの研究機関と農業者が参画する共同研究であれば産業用ヘンプの栽培ができる制度が整い、一部の州を除き全米で産業用ヘンプの栽培が急速に広まっている。
2018年に更新された改正産業用ヘンプ農業法(連邦法)では、産業用ヘンプの定義をTHC濃度0.3%以下の品種とし、規制物質法からヘンプを除外。管轄を麻薬取締局(DEA)から米農務省(USDA)へ移行し、播種用種子の輸入、銀行取引、作物保険などへの各種規制が取り除かれた。
これらの結果、2014年にケンタッキー州の13ヘクタールから始まったアメリカの産業用ヘンプは2019年にはEU、カナダ、中国を上回る約6万ヘクタールにまで拡大し、わずか5年でアメリカは世界最大の産業用ヘンプ栽培国となった(表2)。
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日本では、、、
我が国では、大麻取締法が施行された1948年以降も免許制での栽培が続き、1959年には戦後最も多い約5000ヘクタールが全国各地で栽培されたが、それから約60年後の2016年には栃木県を中心にわずか8ヘクタールのみとなってしまった(厚生労働省)。
なぜ、日本では海外のように産業用ヘンプが再び普及し、新たなヘンプ産業が起きないのか?
次号では、その原因と、ヘンプを新たな基幹作物として導入を目指す北海道の取組みを紹介する。