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米国ヘンプ農業法の最終規則(全96頁)の翻訳と解説Q&Aが公開

目次

5900件のパブリックコメントを反映させた最終規則を日本の参考に

 

昨年6月末に公表された厚生労働省「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の報告書(注1)では、現行法の成熟した茎と種子が合法で花と葉が違法という部位規制から、THCによる成分規制への移行が示されました。

 

一般社団法人北海道ヘンプ協会(HIHA)は、来年に予定されている大麻取締法改正の参考になればと、2018年米国ヘンプ農業法の最終規則を翻訳し、その解説Q&Aとともに、このほど同協会のホームページで公開しました。

 

最終規則の翻訳のサイトはこちらにあります。

https://www.hokkaido-hemp.net/resource.html 

 

これによると、最終規則は全96頁で構成され、規則条文だけでなく、5900件に上るパブリックコメントと複数回の農家、企業、研究者など関係者との公聴会での意見に米国農務省(USDA)が回答するという形をとっています。

 

具体的には、以下のような項目に関する関係者のコメントとUSDAの見解を読むことができます。

THC制限値、総THC量の測定、総THC量の算出、類似した信頼性のある検査方法、免許申請期間、農場サービス局(FSA)の報告および情報共有、ロットの定義、認証種子、クローン操作に対する規制、サンプリング代行者、サンプリング方法、植物の花および全草サンプリング、測定の不確かさ(農場サンプリング)、検査機関認定検査機関承認プログラム(LAP)と国際標準化機構(ISO)DEA検査機関登録、測定の不確かさ(検査機関)、処分、修復、逆流通者、過失違反の閾値、州および先住民族のリソース、不服申し立て、輸送・出荷書類、中間原料、先住民族の平等な扱い、カンナビノイドの精神作用、その他のコメント、その他のコメント‐対象範囲外、IFR(暫定規則)の規制分析に関するコメント:市民審査権、規制影響分析、中小企業への影響、先住民族の問題

 

これらの論点は、我が国の大麻取締法改正の議論にむけて参考になることが極めて多く、今回の北海道ヘンプ協会の取組みはたいへん時宜を得たものと思われました。

 

同協会の菊地代表理事は、「政策リテラシーの高いアメリカ国民のヘンプ産業への情熱と、それをしっかり受け止め、日本語にして約24万5千語に上る最終規則をまとめた上げたUSDAの真摯な対応に感銘を受けました。この最終規則と解説QAを多くの皆様、特に法改正に関係する皆様に読んでいただき、我が国の制度設計の参考にしていただければ」と話しています。  

米国ヘンプ農業法の最終規則について・解説QA    

202245日現在

Q.1 米国は、いつヘンプ(産業用大麻)を解禁したのですか?

A.1 2014年ヘンプ研究法により、大学等研究機関+農業者による生産計画で栽培が一部解禁され、2018年農業法によって、全米で解禁されました。医療用や嗜好用の大麻は、州法レベルで合法化が進展してきましたが、連邦法によって全米で合法化したのは、産業用大麻、すなわちヘンプが最初です。 

Q.2 2018年農業法以前、ヘンプはどのような位置付けでしたか?

A.2 1938年マリファナ課税法の制定によって、実質的にヘンプの栽培が禁止され、1970年規制物質法(CSA)のスケジュールI物質(医療価値なし、最も危険なもの)に位置付けられていました。そのため、約80年間、米国ではヘンプ栽培が禁止されていました。

Q.3 最終規則とは何ですか?

A.2 米国では、州がヘンプ生産計画を立てて、農務省(USDA)がその計画を承認すれば、はじめて州内での栽培が可能となります。最終規則とは、ヘンプ生産計画に盛り込むべき要件を規定したものです。

Q.4 最終規則はどのようにできましたか?

A.4 2018年農業法の制定を受けて、詳細な規則が20191031日に暫定最終規則として発効しました。その後、利害関係者の複数回の公聴会や約5900件のパブリックコメントの指摘を踏まえて修正され、2021322日に最終規則が発効しました。

Q.5 2018年農業法におけるヘンプの定義は何ですか?

A.5 「ヘンプ」という用語は、「大麻(学名Cannabis sativa L.)」の植物および、その植物のいずれかの部位(種子と全ての派生物、抽出物、カンナビノイド、異性体、酸、塩、異性体の塩を含む)であり、成長しているか否かにかかわらず、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(delta9 tetrahydrocannabinol)の濃度が乾燥重量ベースで0.3%以下であるもの」と規定されています。

つまり、ヘンプとは、THC濃度0.3%以下の大麻草品種のことです。

 

Q.6 ヘンプの所轄官庁はどこですか?

A.6 以前は、麻薬取締局(DEA)でしたが、2018農業法の制定以降、コムギやトウモコロシと同じように米国農務省(USDA)の農業マーケティングサービス局(AMS)の所轄となりました。AMSでは、ヘンプ専用のポータルサイト(https://www.ams.usda.gov/rules-regulations/hemp)を開設し、法的な関連情報を一元化しています。

Q7 米国のヘンプ農業法に基づく最終規則は、日本の大麻取締法体系のどこに対応しますか?

A.7 大麻栽培者の要件が記載されている大麻取締法施行規則に該当します。ほとんど知られていませんが、大麻取締法施行規則は、実は厚生労働省と農林水産省の共同管轄となっています。

(昭和二十三年厚生・農林省令第一号)

 

Q.8 米国と日本では、ヘンプの法制度がどのように違いますか?

A.8 米国では、項目ごとに連邦、州(下線)、*連邦と州両方で管轄されています(表1)。

米国に比べて、日本では基準の規定のない項目(ピンク色)が多いことが明らかです。

表1 規準項目に関する日米の違い

Q.9 米国におけるヘンプとマリファナの違いは何ですか?

A.9 ヘンプは、2018年農業法に基づき、農務省(UDSA)管轄で、THC0.3%以下のものです。

マリファナは、規制物質法(CSA)に基づき、麻薬取締局(DEA)管轄で、THC0.3%を超えるものです。

 

Q.10 最終規則でΔ9-THCの定義の解釈はどのようになりましたか?

A.10 ヘンプの植物体内において、THC(テトラヒドロカンナビノール)はTHCA(テトラヒドロカンナビノール酸)として存在していますが、脱炭酸によって分子構造が変化してTHCとなり、その換算式はTHCTHCA×0.877です。したがって、Δ9-THC量の定義は、総THCTHCA×0.877+THCという換算式による総THC量と解釈することが明記されました。

Q.11 「許容可能なヘンプのTHC濃度」とはどういう意味ですか?

A.11 測定の不確かさを含めて、0.3%以下を含む分布・範囲を得た値のことです。例えば、THC0.35±0.06%(測定の不確かさ)の検査結果は、下限値0.29%~上限値0.41%の幅があります。下限値0.29%は、ヘンプの基準値0.3%を超えていないので、「許容可能」と解釈されます。

Q.12 最終規則では、THC検査のやり方をどのように規定していますか?

A.12  ①ヘンプ生産者は、THC検査のサンプリング代行者によるサンプル採取後、30日以内に収穫しなければなりません。

②サンプリングは、頂部から58インチ(12.720.32㎝)で切断しなければなりません。

③サンプル採取数は、ガイドラインで定めています。同じ品種であれば、1エーカー(0.4ha)につき1サンプル、10エーカー(4.0ha)につき10サンプル、100エーカー(40ha)につき76サンプルと細かく指定されています。

Q.13 THCの検査はどこで実施しますか?

A.13 麻薬取締局(DEA)に登録された検査機関でTHC検査を実施します。全米で67か所指定されています。

Q.14 過失と解釈される「許容可能なヘンプのTHC濃度」はどれぐらいですか?

A.14 そのTHC濃度は1.0%までです。過失を3回すると、5年間の免許はく奪となります。

 

Q.15 検査結果でTHC濃度が0.3~1.0%となった場合はどうなりますか?

A.15 畑で「処分」となります。ただし、再検査でOKなものは、「修復」の措置となり、商業流通可能となります。例えば、花や葉は、販売できなくても、種子や茎は販売可能となります。

 

Q.16 THC検査料と免許料はいくらですか?

A.16 最終規則で紹介されている全米の平均値は、サンプリング+検査料 565ドル(62,150円)、免許料など管理費用 800ドル(88,000円)、合計150,150円です。但し、これは1ha当たりの平均値ではなく、農業事業体1軒当たりの平均値です。

 

Q.17 米国では、ヘンプはどんな作物の代替として栽培されていますか?

A.17 ヘンプは、トウモロコシの代替として栽培されています。最終規則で紹介されていた「種実用トウモロコシ」の2017-19年全米平均収益は171,171/ha です。

Q.18 米国では、ヘンプの用途や収益性はどのようになっていますか?

A.18  最終規則では、2019年と20年の生産実績から推計した下記の表2が紹介されています。

表2 2019年と20年の生産実績から推計されたヘンプの収益性
注:1ドル=110円換算、カンナビノイド=ヘンプバイオマス中のCBD含有量:6%

 

Q.19 ヘンプ栽培におけるTHCの濃度基準の根拠は何ですか?

A.19 一般的なマリファナのTHC濃度は525%です。既往の研究によると、THC 1.0%ではマリファナとプラセボ(偽薬)の区別がつけられず、THC 2.7%ではプラセボと明確に区別できました(Franjo and Gero, 2002)。参考までに、各国のヘンプ品種のTHC濃度基準を表3に示します。


表3 世界各国のヘンプ品種の濃度基準(農業経営者2022年3月号P45より)

Q.20 全米のヘンプ作付面積はどれぐらいですか?

A.20 ヘンプ研究法が制定された2014年、ケンタッキー州における14ヘクタールから始まった米国のヘンプ栽培は、ヘンプ農業法が制定された翌年の2019年には全米で59,110ヘクタールまで急拡大しましたが(農業経営者202012月号P21より)、2021年現在の作付け面積は全米で21,660 haです(USDA National Hemp Report)。その80 %はカンナビノイド(主にCBD)の生産が目的であり、18 %がヘンプの種実用、繊維用はわずか3 %の作付け面積割合となっています(表2)。


Q.21 
播種用のヘンプ種子は、どのように入手すればよいですか?

A.21 米国では、全米規模の認証種子制度はありません。一部の州では、品種基準を満たしたヘンプの認証種子をリスト化し、それを推奨しています。農家は、州の認証種子を国内の種子会社から入手するか、または、海外から他の農産物と同じ手続きによって入手することができます。

Q.22 ヘンプの規制に関する米国の文書で、他に和訳したものはありますか?

A.22 これまで、下記の文書を和訳しました。今後も必要なものがあれば随時翻訳します。

 

米国農務省農業マーケティングサービス局の文書

・ヘンプ生産プログラム(最終規則)2021322日発効(96頁)

・ヘンプのサンプリングガイドライン 2019115

・ヘンプの栽培施設の修復および処分ガイドライン 2021115

・検査機関の検査ガイドライン 2021115

AOAC International標準メソッド性能要件(SMPR 2019.003

 ヘンプ(低THC大麻草品種)の植物材料中のカンナビノイド定量化のための標準試験法の性能要件

・米国農務省播種用ヘンプ種子の輸入 2019418日通知

  • 参考情報

北海道ヘンプ協会について詳しく知りたい方は、下記のHIHAホームページをご覧ください。

http://www.hokkaido-hemp.net/ 

 

厚生労働省「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の報告書

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syokuhin_436610_00005.html 

 

米国(4)連邦法のヘンプ完全合法化を受け新たに挑戦するケンタッキー州 

農業経営者202月号

https://agri-biz.jp/item/content/pdf/5105 

 

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AUTHORこの記事をかいた人

Yosuke Kogaのアバター Yosuke Koga HTJ 編集長

1996年カリフォルニアで初の医療大麻が解禁。その5年後に現地へ移住し、医療大麻の家庭栽培、薬局への販売などの現場や、それを巡る法律や行政、そして難病、疾患に対し医療大麻を治療に使う患者さん達を「現場」で数多く見てきた、医療大麻のスペシャリスト。

10年間サンフランシスコに在住後、帰国し、医療機関でCBDオイルの啓蒙、販売に従事し、HTJのアドバイザー兼ライターとして参画。グリーンラッシュを黎明期から見続けてきた生き証人。

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