
高性能複合材向けヘンプの可能性を実証
欧州の研究機関と産業パートナーによる新たな建築プロトタイプが、長繊維ヘンプを構造用複合材へ活用する可能性を示した。これにより、建築分野やエンジニアリング製品向けの高付加価値市場が開かれる可能性がある。
今回発表された「Hemp Halo Canopy」は、EU資金による研究プロジェクト「RAW」の一環として開発された高さ3.3メートルの建築構造物である。
特殊な製造技術を用いて、ヘンプ由来の構造部材とヘンプ製テキスタイル表面材を組み合わせており、開発チームはこれを「完全にヘンプのみで構成された世界初の軽量建築システム」と説明している。
RAWは、産業用途および建築用途向けのバイオベース材料と製造技術の発展を目指す欧州研究プロジェクトである。
今回のプロジェクトは、フランス・パリで開催された複合材専門展示会「JEC World」で公開された。
この実証が重要なのは、これまでガラス繊維複合材が支配してきた技術用途において、ヘンプ繊維が競争可能であることを示している点にある。
研究者らは、ヘンプやフラックス(亜麻)などの靭皮繊維が、高い剛性、優れた振動吸収性、低炭素性を兼ね備えており、従来の繊維製品や断熱材、不織布用途を超えた応用が可能だとしている。
ヘンプ・プルトルージョン技術
Hemp Haloは、2つの先進製造技術によって構成されている。
構造部材には「プルトルージョン(Pultrusion)」が採用された。
これはヘンプ繊維を樹脂システムへ連続的に引き込みながら成形する技術で、軽量かつ高強度な構造部材を製造できる。
一方、屋根部分にはコンピュータ制御編機によって製造されたヘンプ糸が使用されている。
この技術により、材料ロスを最小限に抑えながら複雑な立体テキスタイル形状を形成することが可能になる。
Alliance for European Flax-Linen & Hempによれば、近年の長繊維ヘンプ加工技術の進歩によって、高強度プルトルージョン製品の製造が現実的な選択肢になりつつあるという。
Hemp Haloは、その技術力をフルスケール建築物で実証するために開発された。
今後は、プルトルージョン部材の機械特性評価、樹脂システムの最適化、生産コストの検証、従来のガラス繊維複合材との性能比較などが進められる見込みだ。
これらの検証結果が、実証段階から商業利用への移行を左右することになる。
産業パートナー
このプロジェクトには、欧州のヘンプおよび複合材バリューチェーンを代表する企業・研究機関が参加している。
参加企業には、フランスのTerre de LinおよびSafilin、イタリアのLinificio e Canapificio NazionaleとPolynt、オランダのアイントホーフェン工科大学およびInfra Composites、スイスの天然繊維複合材企業Bcomp、ルクセンブルクの素材メーカーArmacellなどが含まれる。
またJEC Worldでは、ヘンプ繊維とバイオ樹脂を用いた波形バイオ複合外装材「BastWave」も紹介された。
この製品はすでにロンドンのYoung V&A Museumで実際に採用されている。
編集部あとがき
今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。
1.ヘンプは“ガラス繊維の代替候補”になり始めている
今回の実証は、ヘンプが単なる天然素材ではなく、高性能複合材市場に参入できる可能性を示している。従来ガラス繊維が担ってきた構造用途への挑戦が始まっている。
2.長繊維加工技術の進化が新市場を開く
これまでヘンプの課題だった長繊維の安定加工技術が進歩したことで、高強度プルトルージョン製品の製造が現実的になりつつある。
3.本当の価値は建築以外にも広がる可能性がある
建築用途は実証の入り口に過ぎない。将来的には輸送機器、産業機械、複合パネルなど高付加価値市場への展開も期待される。
4.欧州は“高機能ヘンプ産業”を本格構築している
育種、繊維加工、複合材、建築までを横断する産業連携が進んでおり、欧州はヘンプを高機能素材産業へ発展させようとしている。


