
インタビュー:Alex Teodorescu氏とは?
ベルギーのCretesにて天然繊維加工システムの商業開発を統括している。15年以上の機械設計経験を背景に、産業エンジニアリングと靭皮繊維(バストファイバー)加工の知見を融合。2022年の入社以降、ヘンプやその他の天然繊維に向けた加工ソリューションの開発を進め、パイロット段階から産業規模への橋渡しを担っている。
フラックスとヘンプ技術はどこまで共通するのか
HempToday:Cretesはフラックスとヘンプの橋渡しを掲げていますが、実際にどれほど技術は転用可能なのでしょうか?
Alex Teodorescu:フラックス加工の知見の多くはヘンプにも応用可能です。靭皮繊維の加工は本質的に、繊維の機械的分離、繊維とシブ(木質部)の分離、そして梱包という基本原理に基づいています。これらは長年のフラックス加工の蓄積です。ただし、ヘンプはフラックスではありません。単純なコピーでは通用しません。フラックスは主にスカッチング技術で処理されてきたのに対し、ヘンプは多段階のデコーティケーションが主流でした。これは農業的条件や歴史的な用途の違いに由来します。2020年以降、並行収穫技術の登場とCretesによる実証により、フラックス由来技術でのヘンプ加工が可能になり、このギャップは縮まりつつあります。
テキスタイル品質で最大の課題は何か
HT:ヘンプ繊維がテキスタイル用途で課題となる点は何でしょうか?
AT:品質そのものではありません。問題は「一貫性」です。ヘンプはテキスタイル品質に達すること自体は可能です。しかし重要なのは再現性です。日々安定した品質を維持できなければ、産業として成立しません。さらに重要なのは、ヘンプをテキスタイルだけで捉えないことです。建材、複合材、不織布、紙など幅広い用途があり、成功するプロジェクトは複数市場を組み合わせています。
テスト加工で顧客が驚くポイント
HT:バッチテストで顧客が最も驚く点は何ですか?
AT:最大の価値は「仮説ではなく現実を見ること」です。外見が似ている原料でも、実際の加工では繊維歩留まりや品質が大きく異なります。レッティング、含水率、圧縮密度、不純物などの違いが結果に大きく影響します。これを理解せずにスケール化するのは危険です。
工業スケール化はどこまで進んでいるか
HT:産業規模での安定加工はどの段階ですか?
AT:すでに可能かどうかの議論は終わっています。問題は「どれだけ早く再現性を確立できるか」です。成功事例を積み重ねることで、それが標準になります。
ボトルネックは機械か原料か
HT:最大のボトルネックはどちらですか?
AT:両方です。そしてその相互作用です。どれだけ優れた機械でも原料が不安定なら品質は安定しません。品種選定、レッティング、水分管理、不純物管理すべてが重要です。
新規参入者の典型的なミス
HT:参入時の最大の間違いは何でしょうか?
AT:最初に機械から考えてしまうことです。本来はまず農業と原料から考えるべきです。その地域で何が育つか、どの市場に売るかを先に決める必要があります。その上で初めて適切な設備選定が可能になります。
採算ラインの規模感
HT:どの程度の規模が必要ですか?
AT:明確な数字はありませんが、複数の収益源を確保できるかが最も重要です。ただし、ヨーロッパでは数百kg/時程度では産業として成立しないケースが多いです。
テキスタイル依存は危険
HT:顧客はテキスタイル重視ですか?
AT:関心は高いですが、成功はテキスタイル単体では成立しません。紙、不織布、建材、副産物活用など複合収益モデルが必要です。
設備メーカーの役割
HT:単なる機械販売ではないのですか?
AT:役割は「不確実性の削減」です。市場が未成熟な中で、実行可能な産業モデルを構築する支援が重要です。
今後3〜5年で必要なこと
HT:何が解決されるべきですか?
AT:最も重要なのは「現実的な認識」です。原料品質、加工限界、市場適性について業界全体が現実を共有する必要があります。
編集部あとがき
今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。
1.ヘンプはテキスタイル産業ではなく「複合素材産業」
ヘンプを単一用途で捉えると失敗する。複数用途を前提にした設計が成功の前提となる。
2.最大の課題は品質ではなく「再現性」
単発で良い繊維は作れるが、産業として成立するには日々安定した品質供給が不可欠。
3. ボトルネックは設備ではなく「原料×加工の関係」
機械だけでも原料だけでもなく、全体最適が求められる。農業から加工までの一体設計が必要。
4.成功の鍵は最初の設計段階にある
機械選定ではなく、原料・市場・用途設計が最優先。ここを間違えると全体が崩れる。


