大麻草には、カンナビノイドと呼ばれている独特な生理活性物質が100種類以上含まれています。その中でも有名なのは、マリファナ効果で有名なTHC(テトラヒドロカンナビノール)と、難治性てんかん薬にも承認された成分で、健康機能成分として注目されているCBD(カンナビジオール)があります。
大麻草に含まれるカンナビノイドの抗菌作用については、いくつかの研究で明らかになっていますが、抗ウイルス作用についてはわずかな研究しかなく、新型コロナウィルスについては当然のことながら未知の世界でした。
「予防」に有効か?
しかし、カナダのレスブリッジ大学生物科学部らの研究者が、大麻草の800系統ある品種のうち、高CBDを含む13の系統の抽出物が、コロナウイルス(COVID-19)のゲートウェイ(入り口)組織のアンジオテンシン変換酵素II(ACE2)受容体の発現を調節することを発見しました。
アンジオテンシン変換酵素II(ACE2)受容体は、コロナ対策の重要なターゲットとして注目されています。
<アンジオテンシン変換酵素II(ACE2)受容体をターゲットとした事例>
事例:参考 (画像:引用元)
中国研究者、新型コロナが感染に使うACE2受容体の立体構造を解明
実験で使われた高いCBD濃度を含む大麻草とは、THCとCBDの比率が1対1.5(4.5%対6.7%)から1対54(0.03%対1.61%)まで、13系統の品種でした。THCが0.3%以下のものは、カナダと米国で「ヘンプ」と呼ばれている品種です。この実験では、ヘンプの定義に該当する品種も、THCが0.3%より多く含む医療用大麻に該当する品種も含めて、いろいろと試されています。
<セリンプロテアーゼ TMPRSS2をターゲットとした事例>
さらに、著者らの初期データでは、大麻草抽出物が、コロナウィルス侵入に必要で、なおかつ重要な蛋白質であるセリンプロテアーゼTMPRSS2をダウンレギュレート(発現低下)することを発見したのです。
セリンプロテアーゼに関しては、国内で流通している治療薬剤での研究で注目されているターゲットです。
事例:参考 (画像:引用元)
CBDは、知られているだけで60以上の受容体や酵素などに作用し、複雑なメカニズムをもつ成分です。新型コロナウイルスのターゲット(本実験ではACE2受容体やセリンプロテアーゼ)にも対応することがわかりました。
但し誤解してはいけないのは、この研究は、CBDがコロナウィルスを死滅させるというような直接的な治療効果の研究成果ではないという事です。
あくまでも予防的に使えるかもしれないという話なのです。
画像:引用元
実験では、ここまでの発見でしたが、高CBDの大麻草抽出物がさらなる基礎研究および臨床研究を進めて、どの程度のTHCとCBDの比率や濃度で、どの程度の予防効果があるのかを明らかにすることが今後大きく期待されます。
また、この研究成果を踏まえて、他の研究チームが参入することで、大きく研究を前進させていくことにもつながるでしょう。新型コロナウィルスに人類が闘うための手段として、大麻草が役立つ日が来るかも知れません。
論文の概要
以下は、発表された論文のアブストラクトの邦訳です。
予防戦略を求めて:新規抗炎症性高カンナビジオール(CBD)大麻草抽出物がコロナウイルス(COVID-19)のゲートウェイ(入り口)組織のACE2受容体発現を調節する。
オンライン公開:2020年4月19日(02:45:50 CEST)
人畜共通伝染病SARS‐CoV2コロナウイルスの新規治療が困難であることに起因するCOVID‐19の世界的流行が急速に拡大しているため、疾患の拡大を抑制し死亡率を低下させるのに役立つ新しい治療法と予防戦略が緊急に必要である。
ウイルス侵入を阻害し、その広がりを抑えることは、妥当な治療手段となる。他の呼吸器系病原体と同様に、SARS-CoV2は呼吸器系飛沫を介して伝播し、エアロゾルおよび接触伝播の可能性がある。
それは、肺組織、口腔および鼻粘膜、腎臓、精巣、および消化管で発現するアンジオテンシン変換酵素II(ACE2受容体)を介したヒト宿主への受容体媒介性侵入を用いる。
これらのゲートウェイ(入り口)組織におけるACE2受容体レベルの調節は、疾患感受性を低下させるための妥当な戦略となる可能性がある。大麻草(Cannabis sativa),特に抗炎症性カンナビノイドであるカンナビジオール(CBD)が遺伝子発現と炎症を調節し、抗癌と抗炎症特性を有することが提案されている。
カナダ保健省研究ライセンスの下で、800以上の新しい大麻草系統および抽出物を開発し、高CBD 大麻草抽出物がCOVID‐19標的組織におけるACE2受容体発現を調節するために使用できると仮定した。
口腔、気道および腸組織の人工ヒト3Dモデルを用いた大麻草抽出物のスクリーニングにより、ACE2遺伝子発現およびACE2蛋白質レベルを調節する13の高CBD 大麻草抽出物を同定した。
著者らの初期データでは、大麻草抽出物が、宿主細胞へのSARS‐CoV2侵入に必要なもう1つの重要な蛋白質であるセリンプロテアーゼTMPRSS2をダウンレギュレート(発現低下)することを示唆する。著者らの最も効果的な抽出物は更なる大規模な検証を必要とするが、著者らの研究はCOVID‐19に対する医療用大麻の効果の将来の分析に重要である。
著者らの最も成功した新規高CBD 大麻草系統の抽出物は、更なる研究が行われるまでの間、補助療法としてのCOVID‐19の治療への有用かつ安全な追加となる可能性がある。
これらは、臨床および家庭での使用のためのマウスウォッシュおよび咽喉うがい製品の形で、使いやすい予防治療の開発に使用できる。このような製剤は、口腔粘膜からのウイルス侵入を減少させる可能性について試験する必要がある。現在の悲惨で急速に発展している疫学的状況を考慮すると、あらゆる可能な治療の機会と方法を考慮しなければならない。
引用文献
Wang, B.; Kovalchuk, A.; Li, D.; Ilnytskyy, Y.; Kovalchuk, I.; Kovalchuk, O. In Search of Preventative Strategies: Novel Anti-Inflammatory High-CBD Cannabis Sativa Extracts Modulate ACE2 Expression in COVID-19 Gateway Tissues. Preprints 2020, 2020040315 (doi: 10.20944/preprints202004.0315.v1).
記事:引用元