我が国では、昨年の厚生労働省「大麻等の薬物対策のあり方検討会」、今年の大麻規制検討小員会において、大麻取締法の植物部位の規制からTHC成分規制への変更が検討されています。THC成分規制は、すでに多くの国で採用されています。
例えば、タイ王国では、1979年麻薬法におけるスケジュール5の区分から大麻が削除(22年6月9日施行)されましたが、大麻エキスでTHC濃度0.2%以下は合法で、0.2%を超えるものは麻薬扱いとなっています。この0.2%の製品基準は、WHO勧告と同じものとなっています。
下記は、0.2%の製品基準に関するWHO関連の資料のまとめです。
CBDのWHO勧告の流れ
日本政府から提案のあった2009年の国連麻薬委員会(CND)決議52/5(注1)により、大麻草の健康への影響が見直されていないことを指摘し、世界保健機関・依存性薬物専門家委員会(WHO/ECDD)に最新の報告書を提出するように要請がありました。
WHOは科学的根拠に基づいたプロセスで精神作用物質の審査を実施するために、ECDDメンバーが従うべき手順である「国際統制のための精神作用物質のWHO審査ガイドライン」(注2)という文書を2010年に採択しました。
ガイドラインによると、審査手続及び薬物評価は、事前審査(ピア・レビュー)と批判的審査(クリティカル・レビュー)で構成され、ECDD会議からの成果は、“WHO Technical Report Series Collection”の報告書で公式発表となります。
カンナビジオール(CBD)は、WHO/ECDDの2016年11月の第38会期報告に基づいて、審査手続きのプロセスに入り、2017年11月の第39会期に事前審査報告書(注3)が発行され、第39会期報告書(注4)に記載されました。
その後、WHO/ECDDの2018年6月の大麻及び大麻関連物質のみに焦点をあてた第40会期にカンナビジオール(CBD)批判的審査報告書(注5)を発行して、速報版として国連事務総長(アントニオ・グテーレス氏)へのレター(2018年7月23日)にて、「純粋なCBDであると考えられる製剤は、国際薬物統制条約の範囲内でスケジュール(規制薬物)にすべきではないと勧告した。」ことを示しました(注6)。
公式には、第40会期WHO/ECDD報告書(注7)にCBDの勧告が収載されています。純粋なCBD、つまりCBDという物質そのものの依存及び乱用の可能性評価を行い、国際的な薬物条約の規制対象外であることが確認されたのです。
一方、CBDオイルやCBDベイプなどの大麻草由来のCBD製品は、第40会期WHO/ECDDに引き続き、2018年11月の第41会期の「大麻エキス」「大麻チンキ」の枠組みで批判的審査が行われました(注8)。その結果、国連事務総長(アントニオ・グテーレス氏)へのレター(2019年1月24日)にて、次のような勧告を示した(注9)。
カンナビジオール製剤
委員会は、1961年麻薬単一条約のスケジュールIに、「カンナビジオールが大部分を占め、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノールを0.2%以下含む製剤は国際的な規制下としない。」という脚注を追加することを勧告した。(勧告5.5)
よく間違えるのは、WHO勧告のTHC濃度0.2%は「製品基準」であって、大麻草の「品種基準」ではありません。例えば、米国やカナダでのヘンプ(産業用大麻)は、THC濃度0.3%以下をヘンプとし、それ以上をマリファナとしています。このときの0.3%は、農作物としての「品種基準」であって、CBDオイルなどの「製品基準」ではありません。
また、日本語で「製剤」とすると、医薬品又はその原料組成物の意味となりますが、国連の定義では、大麻草由来の成分を抽出した調整物を示しており、より一般的な製品も含まれています。
WHO勧告の結果
大麻及び大麻関連物質のWHO勧告は、意見の隔たりが大きく、2020年3月の国連麻薬委員会(CND)において投票(53カ国)の延期(注10)を経て、第63会期の2020年12月2日のCNDによって、「勧告5.1:大麻及び大麻樹脂を1961年麻薬単一条約のスケジュールⅣから削除すること」のみが採択されました。他のWHO勧告は否決(5.2.1, 5.4, 5.5)、投票にかけられず(5.2.2, 5.3.1, 5.3.2, 5.6)という対応になりました(注11)。
CBDに関しては、第40会期WHO/ECDD報告書(注7)で前述のような勧告がありましたが、国連麻薬委員会(CND)において投票そのものが要求されていませんでした。
しかし、麻薬単一条約のスケジュールの見直しの科学的根拠は、これまで紹介してきたWHO/ECDDの事前審査報告書、批判的審査報告書、WHO/ECDD報告書、WHO勧告となります。国連の正式な審査プロセスを経たものとして、国際的に価値のあるものとなっています。
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参考文献
注1:「不正目的のための大麻種子の使用に関するあらゆる側面の探求:改訂草案/アゼルバイジャンと日本」https://digitallibrary.un.org/record/655565?ln=en
注2:Guidance on the WHO review of psychoactive substances for international control
https://www.who.int/publications/i/item/978-92-4-150055-5
注3:5. Pre-Reviews of Substances/5.2 Cannabidiol
日本語版(WHO/ECDD事前審査報告書):http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=73799
注4:WHO Expert Committee on Drug Dependence Thirty-ninth report
WHO Technical Report Series No.1009 March,2018 p.41-43,46
日本語版: https://is.gd/lHQwbN
注5:Critical review: Cannabidiol
日本語版(WHO/ECDD批判的審査報告書):http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=106377
注6: 日本語版 国連事務総長(アントニオ・グテーレス氏)へのレターhttp://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=83062
注7:WHO Expert Committee on Drug Dependence Fortieth report WHO Technical Report Series No.1013 2019 p.13-17
日本語版:https://is.gd/9oPZqG
注8:WHO Expert Committee on Drug Dependence forty-first report WHO Technical Report Series No.1018 2019 p.34-55
日本語版:https://is.gd/vZOGCY
注9:Cannabis recommendations
日本語版:https://is.gd/2L74zM
注10:WHO勧告の採択延期および国際的な意見の不一致について
日本語版:http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103194
注11:WHO勧告の結果:国連は大麻及び大麻樹脂を附表Ⅳから削除を決定。「最も危険で医療価値なし」という分類を変更し、医療価値を認める
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=108328
参考ページ
日本臨床カンナビノイド学会
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=128623