麻蒔桜(おまきさくら/あさまきざくら)とは
全国各地には麻蒔桜と呼ばれる桜の木がある。そしてその名のとおり、桜に花の咲く頃が大麻の播種時期となる。
今では大麻栽培は過去のものとなり忘れ去られた地域もあるが、一部の麻蒔桜はその名とともに春になると咲き誇り、日本各地の観光名所となり、訪れた人たちを楽しませている。
樹齢推定500年を誇る兵庫県豊岡市竹野町の「麻蒔桜」、推定樹齢100年~199年といわれている福井県今立郡池田町月ヶ瀬の「月ヶ瀬の麻蒔き桜(つきがせのあさまきざくら)」
画像:月ヶ瀬の麻蒔き桜引用元
推定樹齢250年の群馬県吾妻郡東吾妻町川戸神社の「おまき桜」、同じく東吾妻町の旧岩島第二小庭端にあるおまき桜、そして同じく東吾妻町の三島細貝の子育て地蔵「おたね桜(麻種桜)」。
画像:おまき桜引用元
また、樹齢300年以上といわれる長野県北安曇郡白馬村貞麟寺の麻蒔糸桜(おまきいとざくら)などがその名を残している。
画像:麻蒔糸桜引用元
また、かつて、長野県長野市鬼無里(きなさ)地区には「麻蒔(おま)き桜に肥辛夷(こぶし)」の農事暦があり、コブシの花に合わせて畑に肥料を撒き、山桜が咲く頃に麻の種を蒔いていた。静岡県森町橘谷山大洞院の御本尊は麻蒔地蔵菩薩(あさまきじぞうぼさつ)だ。
桜のにみならず、ブナの芽吹きも鳥(麻蒔鳥)も・・・
自然とともに生きる。それは、桜だけではない。岐阜県揖斐郡揖斐川町には麻蒔ブナ橋(あさまきぶなばし)があり、ブナの芽吹きにあわせて麻の種を蒔いた。場所によっては植物だけではない。アオバズクともツツドリともいわれすでに詳細は確かではないが筑前雷山地方(現・福岡県糸島市)では麻蒔鳥を目安に種を蒔いた。
画像:コブシ引用元
自然の営みから継承されてきた伝統農法だったが
そうは言っても、過去の話ばかりではない。現在でも麻蒔桜の開花を目処に播種の準備を進める産地も健在だ。麻蒔桜は天気予報やさまざまなデータを駆使するより、その年その年の1番良いタイミングを教えてくれてきたという。それは麻の一大産地の自然の営みから学んだ知恵であり伝統でもある。
しかし、くれてきたと過去形を使ってしまうのは異常気象や気候変動の影響なのか、近年はそれすら当てにならないようなのだ。ここ数年、桜が咲いたら種を蒔くのでは良い麻ができない、良い精麻ができない、とベテランの麻農家は言う。質の良い精麻ができなければ買い手はつかない。問屋もそうだが一般消費者の目も年々肥えてきている。買い手が付かないことは麻農家としては死活問題だ。
麻蒔桜だけを基準にしてしまうと良い麻、良い精麻を作るための成長のタイミングと季節のタイミングがズレてしまうと言う。
だから一気に蒔くのではなく何回にも分けて、畑の状態も見ながら蒔くのだと言う。これまでの経験が役に立たず、試行錯誤なのだと。経験が役に立たないわけはないだろうだけれども、環境の変化がこれまで以上に大きいのだろう。蒔くタイミングも変化している。そして良い麻を育てるために肥料を改良し、精麻作りの発酵方法にも新たな手法を試してみることもあるようだ。
自然環境の変化だけではない。社会環境も大きな変化の時を迎えようとしている。それを現場感覚でリアルに感じ取り、自分の信念に従って、変えてはいけないことは変えず、変えるべきは変えていかないといけないと確信している。
そうやってさまざまな環境の変化や荒波を乗り越えてきた。時には賞賛もあれば批判もあり、賞賛が批判に変わったり、批判が賞賛に変わる時もある。
それは親から子に、師匠から弟子にと何代にもわたってそうなのだ。続いていること、それが時代に翻弄されながらもしっかり時代に適応してきたことの証明になるだろう。
画像:引用元
麻蒔桜。
桜の季節になると思い出す大麻の種蒔き、芽が出るまで鳥が食べに来ないように爆竹やロケット花火を持って日の出から日暮れまで畑を巡る麻農家。
そして、可愛らしい大麻の芽を思い出すのもリアルな姿では無くなってしまうのだろうか。さて、今年も桜に浮かれる季節だ。桜の開花を愛でながら大麻の播種に想いを巡らすのも一興だ。