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モロッコから見た脱植民地&脱帝国主義と大麻合法化(後編)

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 この記事は、前後編二部構成の後編です。

モロッコは、コスメ、産業、医療のヘンプを合法化します(前編はこちら)

 

目次

アフリカの大麻文化の歴史

 

世界的な大麻禁止は、1930年代の米国の禁酒法から大麻課税法へ、そして1961年の麻薬単一条約の制定までの流れで語られることが多いです。しかし、モロッコやアフリカ大陸から見ると、18501925年の植民地期の理解が不可欠です。

 

1.普及期>  

大麻草は、世界各地で繊維、食用、薬として利用されてきた歴史があります。中央アジア原産とされ、北アフリカに伝来したのは、約千年前と推測されています。当時の北アフリカにおけるアラブ人の相次ぐ征服を受けて普及したと考えられています。

 

18世紀には、モロッコ北部のリーフ山地が主な栽培地となりました。伝統的には、刻んだ大麻と、刻んだタバコを混ぜ合わせた「Kif:キフ」(最高の幸せの意)と呼ばれる混合物を、セブシと呼ばれる小さな粘土や銅製のボウルを備えたパイプで吸います。また、大麻は伝統的にお菓子(maajoon)やお茶にも使われており、限られた薬用や宗教的な用途も報告されています。地方行政機関がタバコやキフの販売から税金を徴収し、その独占権の持つ権力者(スルタン)や封建官僚(マクゼン)に譲渡していました

 

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 図:キフとセブシ

 

2.植民地期>

アフリカが植民地支配を受けたのは、主に1870年代から1890年代のことです。世界史的には、ヨーロッパ7カ国によるアフリカ分割の頃です。多くのアフリカの植民地政府は、大麻を使用することで労働力の確保や質が低下すると考えて、大麻規制を行いました。大麻の使用を不道徳なものと見なし、大麻農業に汚名を着せたのです。そして、農業生産を大麻と同じカテゴリーとなる依存性薬物(嗜好品)のタバコ、コーヒー、紅茶などの輸出作物にシフトしたのです。

 

そのため、1925年の第二あへん条約において大麻規制が行われたとき、アフリカ各地の植民地政府はすでに大麻禁止の政策を実施していました。下図参照。

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図:アフリカの大麻規制の状況(18501925年)

 

3.国際禁止期>

1961年麻薬単一条約が制定され、大麻草の国際的な禁止体制ができた頃、アフリカ諸国の多くは、植民地支配から独立をしています。このとき、アフリカ諸国の統治側のエリートたちは、植民地時代からの大麻禁止の政策をそのまま受け入れたのは国際条約を遵守するためでした。

 

1980年代からのアフリカの経済政策の失敗は、違法な大麻農業をアフリカ大陸全域に増やすことつながりました。欧米のヒッピー・ムーブメント、カウンターカルチャーと関連したマリファナ需要がそれを支えたのです。

 

1980年代の欧米発の薬物戦争による厳しい取締が、大麻の価格にプレミアムが生まれ、マリファナ成分THCの高い品種を生み、地下経済の拡大に貢献しました。1930年代の米国の禁酒法がマフィアやギャングを生み出したのと同じ構造です。

 

しかしながら、違法な大麻農業が魅力的な換金作物であっても、アフリカの最貧農層が豊かになったわけではありません。儲かったのは売人とその流通支配者でした。流通支配者は国際的マフィアだけとは限らず、現地政府の公務員、軍・警察の有力者、反政府組織などであり、汚職と腐敗の構造を生み出してきました。

 

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図:UNODC(国連薬物犯罪事務所)による2005年の北モロッコの違法大麻栽培地帯

 

4.再合法化期>

米国各州(1996年~)、カナダ(2001年)から始まる医療用大麻の合法化、ウルグアイ(2013年)、米国の一部(2014年~)、カナダ(2018年)の嗜好用大麻の合法化というトレンドは、アフリカにも影響を及ぼしています。

 

南アフリカでは、2017年、病気の人のために医療用大麻を認可し、2018年には同国の最高裁判所が、成人がダガを個人的に栽培・使用する権利があると判断しています。医療用大麻を合法化では、2017年にアフリカ初となるレント、2番目に2018年にジンバブエ、2019年にザンビアとなっています。産業用大麻では、2020年にガーナが合法化し、マラウイでは、2016年からのヘンプ農業試験栽培を経て、2020年に産業用大麻と医療用大麻を同時に合法化しています。他にも、エスワティニ、コンゴ、ウガンダなどで外国企業に栽培や販売権のライセンスを与えようとする動きがあります。

 

そして、モロッコが2021年中に正式に医療用&産業用が合法化する見込みです。

 

 

植民地経済の輸出品 VS 植民地住民の統治手段

 

当時のヨーロッパの人々は、アフリカ現地の人々を支配下に組み込み、ヨーロッパ式の宗教、政治制度、言語、文化を「与える」ことは、未開な人々を文明化する行為である(altruism:利他主義)とみなされていました。植民地獲得は文明の名のもとに正当化されていたのです。

 

そのため、ヨーロッパの人々(特に上流階級)にとって馴染みのあった依存性薬物(嗜好品)のアルコール、タバコ、コーヒーは合法で、馴染みのなかった大麻は、違法となりました。モロッコやアフリカの住民は、大麻には馴染みがありましたが、ヨーロッパの嗜好品には馴染みがありませんでした。つまり、大麻禁止には、植民地・帝国主義が深く関わっていたのです。

 

19世紀の嗜好品>

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ヨーロッパ諸国                  アフリカ諸国

 

20世紀の嗜好品>

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ヨーロッパ諸国                  アフリカ諸国

 

北モロッコのリーフ地方では、1860年~1954年まで初期の緩い大麻規制がありましたが、タバコとキフの取引の独占権を得たフランス資本の多国籍企業が存在していました。このことは、他のアフリカ諸国が実質的な大麻禁止となっていた<2.植民地期>の例外的な国でした。当時のヨーロッパにおける合法的な大麻チンキなどの大麻由来医薬品のほとんどはモロッコ産だったといわれています。

 

1956年にモロッコが独立し、1961年の麻薬単一条約を遵守することを選択した際、大麻の禁止が、旧フランス領と旧スペイン領の全土に拡大されました。しかし、モロッコ王国初代のモハメッド5世は、大麻栽培の禁止などを理由にリーフ地方で起きた反乱を鎮圧した後、伝統的な栽培地での大麻栽培を容認することを決めています。

モロッコでは、植民地経済の輸出品であり、麻薬単一条約の遵守の例外地域を独自につくったことが、1980年代から2010年代の世界最大の違法な大麻産地=地下経済化になった背景です。

 

 

多国籍企業に恵まれなかった大麻

 

デイヴィット・T・コートライト著「ドラッグは世界をいかに変えたか」によると、大麻について

 

(大麻は)ドラッグとして、コーヒー、アルコールやタバコのような国際的企業の後ろ盾や経済的な影響力をもたなかった。

 

と、書かれています。

アルコールには、ビバドワイザー(1876年創業)、ハイネケン(1873年創業)、タバコにはインぺリアル・ブランズ(1901年創業)やフィリップ・モリス(1900年創業)、コーヒーには、ネスレ(1886年創業)があった。アルコール、タバコ、コーヒーのビッグ・スリーは、生産、流通、消費の規模と世界各地の文化に取り込まれた深さのおかげで、国際的な禁止を免れました。

 

一方で、コカ、アヘン(ケシ)、大麻は、リトル・スリーと呼ばれ、消費量が少なく、地域も限定的であったため、禁止物質にしやすかったのです。

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そのため、歴史を振り返ると、個人への健康被害の大きさ、社会的な害の大きさを、統計的に、科学的に評価されて、アルコール、タバコ、コーヒー、コカ、アヘン(ケシ)、大麻などの依存性薬物(嗜好品)が合法や違法と区分されたわけではないのです。多くの日本人は、ダメ・ゼッタイの薬物教育キャンペーンにより、大麻の健康被害が大きかったから国際規制を受けたと盲目的に信じているだけです。

 

モロッコの大麻合法化は、1500年代からの大航海時代を経て、奴隷貿易、人種差別、植民地・帝国主義、南北格差、薬物戦争といった歴史的な負の遺産を乗り越えようとする社会文化的な挑戦といえるかもしれません。

 

 

取材協力:Morocco and Japan Business

モロッコの大麻/CBDビジネスに関心のある方はこちらに連絡を

http://moroccoandjapanbusiness.com/ 

 

参考文献:

Morocco and Cannabis, 2017

https://www.tni.org/en/publication/morocco-and-cannabis 

Chris S. Duvall, A brief agricultural history of cannabis in Africa, from prehistory to canna-colony, EchoGéo, 48,2019.  https://doi.org/10.4000/echogeo.17599

 

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AUTHORこの記事をかいた人

日本臨床カンナビノイド学会員。北海道ヘンプ協会(HIHA) 法人会員。

美容クリニックで専門医監修の下、CBDオイルを利用したアトピー性皮膚炎の治療を開始。1年間の観察結果からアレルギー数値と、症状の改善がきっかけで大麻の可能性を一人でも多くの方々に知ってもらいたいと思い立ち、編集局員として参加。

「HEMP TODAY JAPAN」を通じて、「世界の大麻産業」の真実を知ってもらう必要があると考えております。

そして、大麻へのマイナスイメージを払拭がされ、医療分野、産業分野問わず、大麻由来製品を誰でも簡単に低コストで利用できる環境を望んでいます。

2017年6月~青山エルクリニックモニター参加。
2018年5月「Hemp Food, Health & Beauty Summit」(HTセンター/ポーランド)。
2018年8月「中国 黒龍江省ヘンプ産業視察ツアー2018」参加。

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