インタビュー
ピーター・デューショップ氏 ― カナダ・ブリティッシュコロンビア州の家族経営ヘンプ企業「Forever Green」共同創業者。ピーター・デューショップ氏は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州ヴァンダーフーフに拠点を置く、家族経営のヘンプ企業「Forever Green」の共同創業者です。
彼は、産業用ヘンプの栽培・収穫・加工に関する豊富な実務経験を持ち、同社を北米で初めて「Laumetris社製KP-4ハーベスター(大型ヘンプ収穫専用機)」の正規ディーラーに導いた人物です。現在はこのKP-4ハーベスターを世界中の農家へ紹介する活動にも注力しています。
HempToday:
現在の産業用ヘンプ繊維市場について、生産能力やインフラ面から見た現状をどのように評価していますか?
Peter Düshop:
ここ2年ほどで、ようやく産業用ヘンプ業界が足元を固めつつあると感じています。適切な投資がようやく市場に入り始め、将来性を見込んで積極的に取り組む優秀な人たちが増えてきたと実感しています。
HT:繊維、バイオプラスチック、建築素材としてヘンプ繊維への関心が高まる中、今後5〜10年で市場を支配すると予想するトレンドは何ですか?
PD:
今後は、より優れた収穫機器、圃場での管理技術の向上、そして高度な加工技術が普及することで、生産量が増加し、品質や標準化された物性に対する理解も深まっていくと考えています。
これにより、市場の信頼性や予測可能性が高まり、新たな製品カテゴリの開発が加速するはずです。
また、特に繊維分野における進展が顕著になると予想しており、ヘンプが衣料品市場に本格的に進出することで、業界全体にとって大きな転換点を迎えることになるでしょう。
HT:産業用ヘンプ市場が本来のポテンシャルを発揮するために、技術面・経済面・政治面のそれぞれで必要なことは何だとお考えですか?
PD:方向性としては、すでに正しい道を歩み始めていると思っています。
技術面では、必要な機材はすでに存在しており、さらに新しい革新技術も次々と研究されている状態です。
経済面では、多くの人がそれぞれの得意分野や市場の隙間に自分の居場所を見つけつつあり、他の物資の価格が上昇している今、ヘンプは以前よりも競争力を持つようになってきました。
また、ここ5年間の変化を振り返ると、業界内での協力体制が非常に整ってきたと感じています。
政治面においては、国によって規制の理解や成熟度にバラつきがあるのは確かです。
大きな課題としては、一部の団体や関係者が、いまだに産業用ヘンプを独立した産業セクターとして認識しきれていないことだと思います。
ただし、市場が成熟し、ヘンプの商業的・産業的な価値が明確になっていく中で、最終的には「朝食のポピーシード・ベーグル」くらい普通の存在として受け入れられるようになると私は信じています。もちろん、そこに至るには時間がかかりますが。
HT:ヘンプ繊維の中でも、ハード(芯部)やバストファイバー(靭皮繊維)のサブセクターが注目を集めています。これらの成長にとって、どのような革新や技術進化が不可欠だと思いますか?
PD:
時には、最も貴重な教訓は“痛い経験”から得られるものです。
現場レベルで見てきたのは、機材の故障や「従来の収穫機で何とかなる」といった思い込みによって、農家との関係が崩れてしまった例があるということです。機械を焼き付かせたり、想定外のトラブルに見舞われたりというケースも見てきました。
このことから、KP4のような専用機材の必要性が強く浮き彫りになりました。農家にとっては、適切な収穫ソリューションを提供できるこうした専門機器が、課題を未然に防ぐ重要なツールになるのです。
一方で、加工以降の段階(ダウンストリーム)においては、CHTA(カナダ産業用ヘンプ協会)やASTM(米国材料試験協会)などの組織による、試験方法の標準化と開発の継続が極めて重要です。
こうした取り組みによって、ヘンプ素材の性能評価がより正確になり、市場の信頼性と拡大が促進されていくと考えています。
HT:現在、ヘンプのストーク(茎)から派生する製品のうち、特に需要を牽引している主な製品カテゴリは何でしょうか?
PD:
北米においては現在、動物ケア用品、建築資材、ノンウーブン(不織布)市場が最大の牽引役となっています。
これらの分野では、2次加工業者や最終製品のユーザーが、ようやく製品需要を“引っ張る”動きに転じてきており、バリューチェーンの下流側からも市場が活性化し始めているのを感じます。
HT:KP-4ハーベスターが、ヘンプ繊維農家にとって“最良の投資”とされる理由は何でしょうか?
PD:
これから産業用ヘンプに参入する農家にとって、KP4はその地域で育てたヘンプの「代表的サンプル」を効率よく収穫できる最良のツールです。
このサンプルを複数の加工・デコルティケーション(繊維分離)メーカーに送って試験してもらうことで、より大きな、そして高額な加工設備投資の前に判断材料を得ることができます。
前にも述べた通り、KP4は“リスク回避ツール”としても機能しており、他の機械を損傷から守るために必要な設備としての価値も高いです。
すでに加工設備を導入している農家にとっても、KP4は農場の管理を向上させ、効率を高め、加工精度やヘンプ素材の品質向上にもつながると考えています。
HT:KP-4がヘンプの茎を効率よく、かつ一貫して収穫できる理由となる「具体的な機能」について教えてください。
PD:
KP4は、ヘンプ特有の厳しい条件にも耐えられるよう設計された“高耐久・重機仕様”の収穫機です。
この機械は、農家自身のニーズを起点に開発されており、「メンテナンスのしやすさ」や「信頼性」が重視されています。
また、多くの機械に搭載されているような複雑な油圧システムは使用せず、あくまで「実績あるシンプルな技術」で構成されているため、長期的な安定稼働が可能です。
この設計思想により、KP4はヘンプ収穫に求められる“安定した処理能力”と“高い再現性”を兼ね備えており、現場で信頼できる存在になっています。
HT:KP-4の処理能力について、1日あたりの面積や収穫量での目安を詳しく教えてください。他の方法や技術と比べて、どのような違いがありますか?
PD:
とても良い質問ですね。というのも、私たちが取り組んでいる環境は、圃場の広さや地形など非常に多様だからです。
理想的な、まっすぐな圃場条件下で時速10マイル(約16km/h)で走行した場合、おおよそ1時間に11エーカー(約4.5ヘクタール)を刈り取ることが可能です。
実際にはもっと速く走らせるオペレーターも見てきましたが、あくまで理想値として参考にしてください。
ただし、農業には常に変数がありますので、現実的にはこの数値の50〜75%程度の効率を見込んで計画することを推奨しています。
シーズン全体を通しての目安としては、KP-4は1台で約1,000エーカー(約400ヘクタール)に対応できると考えていますが、中には1台で2,000エーカー以上に対応したオペレーターも存在します。
何よりも、KP-4は業界がまだ成長段階にある中で「コスト効率の良いソリューション」として位置付けられています。
これまでは、自走式の大型機械しか選択肢がなく、それらはKP-4の7〜10倍の価格がする上に、費用対効果の面でも持続可能とは言い難いものでした。
HT:ヘンプビジネスの中で直面してきた課題から、どのような学びを得ましたか?また、これから業界に入ろうとする人にどんなアドバイスを送りますか?
PD:
私たちが得た最も大きな教訓の一つは、「目標に向かって一歩ずつ進むことの価値」です。
創業当初は、とにかく未知だらけで、多くのことを独学で学ばなければなりませんでした。
でも、失敗や金銭的損失のリスクを避けるために、あえて“時間をかけること”を選びました。
要するに、私たちは「時間」を「お金」の代わりに使い、リスクを最小限に抑えるという戦略を取りました。その結果、多少時間がかかっても、それを受け入れられる心の余裕があったのです。
今から参入を考えている方へのアドバイスとしては、信頼できるヘンプ専門の団体や業界グループとつながることが非常に大切です。
そして、遠慮せずにたくさん質問をし、自分のアイデアを十分に検証・磨いた上で行動するようにしてください。
HT:投資家に対して、どのようなメッセージを伝えたいですか?
PD:
私が投資家に伝えたいのは、産業用ヘンプ分野はまだ成長初期段階にあるものの、将来性が非常に大きいということです。
世界中で、従来型の資源に代わる「より良い代替手段」が求められている中で、産業用ヘンプはまさにその答えの一つとなり得ます。
環境問題や気候変動への立場がどうであれ、「より良いやり方を目指すべきだ」という姿勢は共通して大切にすべきことです。
産業用ヘンプが注目される理由は、環境にやさしいだけでなく、私たちが今なお依存している「限りある資源」や「慎重な管理が必要な供給網」への依存度を大幅に下げる可能性があるからです。
加えて、ヘンプは「地域の資源自立性(sovereign reliance)」を強化する手段にもなります。
つまり、各国が自国内で資源を確保し、外部サプライヤーへの依存を減らすことができるという点で、地政学的な安定にも寄与します。
こうした要素は、既存市場に新たな価値をもたらすだけでなく、今後成長が見込まれる新産業への扉を開く可能性も秘めているのです。
編集部あとがき
今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。
1.ヘンプ産業は今、インフラ・技術・人的資源がようやく整い始めた“仕込み期”にある
Peter氏は、過去2年で産業用ヘンプ分野がようやく「足場を固めつつある」と評価しており、投資、機材、協働体制が揃い始めた段階であることを明確に語っています。これからの10年で繊維、建材、ノンウーブンなどへの本格展開が期待される“助走期”の只中です。
2.専用機器(KP-4)の存在が、産業化の“起点”として決定的に重要
収穫の失敗や農家との関係悪化を避けるためにも、従来の農機での流用ではなく、専用機材による最適化が不可欠であると強調。KP-4はコストと収穫効率のバランスに優れた導入機として、1,000〜2,000エーカー規模に対応可能という具体的な稼働実績が示されました。
3. 投資の基本は「段階的ステップ」と「現場で学ぶ柔軟性」
Peter氏自身の経験から、大きな失敗を避けるために“時間をかけて学ぶ”アプローチが最適だったと述べており、これから参入する事業者にも、組織との連携・疑問を放置しない姿勢・検証の徹底が求められるとしています。これは、「じっくり勝つ」型のリアルな戦略論です。
4.ヘンプは資源依存からの脱却を支える“戦略的作物”である
投資家へのメッセージでは、環境問題の文脈を超え、国家の資源自立性やサプライチェーン強靭化といった、マクロ視点での意義が強調されました。産業用ヘンプは単なる“環境素材”ではなく、地政学的リスク対策や地域経済構築に資する新しい農業資源であるという位置づけです。