2020年12月4日からオーストリア・ウィーンで行われる国連麻薬委員会(CND)の会合では、大麻及び大麻関連物質のWHO(世界保健機関)勧告(注1)に対する審議及び53カ国の投票が行われる予定です。
この投票に先立ち、世界各地の主要なヘンプ産業分野の11団体が、繊維型品種の大麻草=ヘンプ(注2)と薬用型品種の大麻草との議論に光を当てた統一見解文書(注3)を2020年9月3日に発表しました。
この文書の発行自体が、国際的なヘンプ産業において、非常に重大で画期的な成果となりました。
この統一見解文書は、1972年議定書で改正された1961年の麻薬単一条約(注4)と1971年の向精神薬条約(注5)という2つの国際法に基づいています。
単一条約は、約60年前に180の国で批准され、現在でも世界各国の薬物規制法を規定しています。
ヘンプは本来2つの国際条約の対象外
麻薬単一条約と向精神薬条約は、陶酔作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)含有量の高い大麻草の品種のみに適用されます。この2つの条約は、成人用大麻または医療用大麻の薬用型の大麻草と、THC含有量が低いヘンプとは明確に区別されています。
例えば、麻薬単一条約の第28条の2では「もっぱら産業上の目的(繊維及び種子に関する場合に限る。)又は園芸上の目的のための大麻草の栽培には、適用しない」と明記されています。
また、天然由来及び合成由来のTHCは、向精神薬条約の付表Ⅱで規制されていますが、THC含有量が微量しかないヘンプの「花及び果実のついた枝端」については、同条約第4条(b)の「公衆の健康上及び社会上の問題となるほど濫用されており又は濫用されるおそれがあるという十分な証拠があること」に該当しないため、国際的規制から免除されます。統一見解文書では、条約解説書を引用し、ヘンプ栽培は、麻薬単一条約の生産管理制度の適用を受けないことを明らかにしています。
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したがって、ヘンプの花や葉を利用した抽出物やヘンプ樹脂、すなわちCBD(カンナビジオール)を主成分としたヘンプ製品のための栽培・加工・販売は、薬物関連の国際条約の対象外ということです。
ヘンプのTHC許容量として1.0%を推奨
1976年に国際植物分類学学会(IAPT)の学術誌にTHC0.3%以下をヘンプ、それを超えるとマリファナと発表(注5)されて以来、法的な基準として権威をもってしまっています。
実際に、カナダ(合法化:1998年)が0.3%、欧州連合(2002年~)が0.2%、米国(合法化:2018年)が0.3%、中国(国家推奨基準:2008年)が0.3%と設定されています。
ところが、その後の科学的評価を踏まえ、近年ではTHC許容量1.0%を採用する国が増えています。例えば、ウルグアイ、エクアドル、南アフリカ、マラウイ、タイ、スイス、オーストラリアです。
ヘンプは、THCとCBDの割合がおよそ1対25で含まれているので、THC許容量1.0%とすると、理論上CBD含有量25% の品種を栽培することができ、CBD生産効率が高まり、国際ビジネスにおいて極めて有利になります。そのため、統一見解文書では、各国の事例を踏まえ、公平なビジネス環境のために、THC許容量は1.0%を推奨しています。
北海道ヘンプ協会(HIHA)が日本の法的課題を世界へ発信
HIHAは、「麻薬単一条約及び国際薬物管理制度に関する産業用へンプ業界の統一見解文書」に賛同し、日本のヘンプ規制について下記のように取りまとめました。
これを統一見解文書の付録1の各国事例で紹介してもらい、特に日本のヘンプ産業を発展させる上で大きな障害となっている日本の大麻取締法とその運用上の課題を世界に発信しました。英語版だけでなく、フランス語版、スペイン語版も同時発行されました。
今後は、この統一見解文書を国会議員・北海道議会議員、行政関係者、日本のヘンプ産業関係者などに配布し、日本の大麻取締法の改善のために、署名キャンペーン(注7)や関係各所への働きかけに取組んでいきます。
日本のヘンプ規制(統一見解文書付録1各国の事例 p11-12、原文は英語)
日本において、ヘンプは、第二次世界大戦終了まで、1万年以上前から誰でも自由に栽培できる一般的な農作物でした。
しかしその後、1930年に施行された旧麻薬取締規則において、初めて印度大麻草(ヘンプではない)が麻薬として規制されました。
第二次世界大戦後、米国中心のGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内のヘンプは同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられました。
ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の麻農家を保護するために大麻取締法(昭和23年7月10日制定、法律第124号)を制定しました。
医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(昭和23年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。麻農家には都道府県知事からの免許が交付されました。医療用大麻及び大麻由来の医薬品は、医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されました。
その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、ヘンプ繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わりました。
大麻取締法は、大戦後70年間で農家保護のための法律から、マリファナ取締のための法律へと変貌しました。
現在は、ヘンプの作付面積10ha未満、大麻栽培者約30名、マリファナを取り締まるための大麻研究者が400名いる。この栽培スケールでは、ヘンプ製品は神社の宗教儀式、伝統工芸品、民俗習慣のみに限定されてしまう(注8)。
大麻の定義
大麻取締法第1条(注9)
この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)、大麻草の種子及びその製品を除く。
この法律では、大麻草の花と葉の利用が違法であり、それの茎(繊維)と種子は、合法である。
この法律は、ヘンプの栽培及び利用を推進するにあたって、次のような課題がある。
(1)THC濃度基準が明記されていないため、マリファナとヘンプの区別がない。
(2)免許制度によって、ヘンプ栽培できるにも関わらず、ヘンプ栽培が実質的に禁止されている。新規の免許交付がほとんどない。
(3)花と葉およびそれらの製品はすべて違法であり、所持するだけで大麻取締法違反として厳しく罰せられる。
(4)葉や花の利用が合法な国で製造されたCBD製品も日本国内では違法となり、輸入できない。輸入できたCBD製品であっても、THCが微量検出されると商品回収事件となる。
(5)日本では、種子と成熟した茎とその製品は合法ですが、発芽能力のある種子の輸入は違法である。そのため、日本国内で海外の優れた産業用ヘンプの品種を試験栽培することさえできない。
これらの課題を解決するには、ヘンプの品種基準であるTHC0.3%濃度を産業用大麻の定義として大麻取締法の中に書き込むという、法改正が必要である。
現在、HIHAが中心となって日本国政府、国会に請願中である。
統一見解文書に署名した産業用ヘンプ分野の団体
・ACU Asia-Pacific CBD Union (中国)
・Australian Hemp Council(オーストラリア)
・BHA British Hemp Alliance(英国)
・CHTA/ACCC Canadian Hemp Trade Alliance/Alliance Commerciale Canadienne du Chanvre(カナダ)
・EIHA European Industrial Hemp Association(欧州)
・HIA Hemp Industries Associations(米国)
・HIHA Hokkaido Industrial Hemp Association(日本)
・LAIHA Latin America Industrial Hemp Association(ラテンアメリカ)
・Mongolian Hemp Association(モンゴル)
・NHA National Hemp Association(米国)
・NZHIA New Zealand Hemp Industries Association(ニュージーランド)