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今週のスーパーチューズデーでは、それまで下位を走ってきたジョーバイデン氏が、撤退した保守系の他の候補者の支持層を取り込んで躍進し、首位を走っていたバーニー・サンダース氏を窮地に追い込んでいます。 米国には、「赤狩り」という歴史があり、かつ巨大企業や資本家が国政の奥深くまで介入しているため、サンダース氏のような「究極のリベラル」に対する拒否感が社会全体にあります。 それを踏まえると、現在のトランプ大統領のような極右政権にウンザリしている国民が、サンダース氏のような「極左(実際にはそうではありませんが)」候補を警戒し、唯一の中道的な政策を謳うバイデン氏に惹かれるのは無理もない事かもしれません。 しかし、本当にバイデン氏は、有権者たちの望むような政治家なのでしょうか? 今回は、大麻政策を切り口に、彼の大統領としての資質に迫ってみたいと思います。
「親切なジョーおじさん」= バイデン氏
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バイデン氏は、オバマ政権の副大統領として勤め上げた8年の間に、「親切なジョーおじさん」のイメージを慎重に培ってきましたが、同時に、自分には全てを棒に振ってしまう可能性のある「過去」があることを自覚しています。
今でこそ、好々爺のようなイメージのバイデン氏ですが、90年代までの彼の経歴を見ると、どうやら違う人物像が見えてきます。実は彼ほど、アメリカの麻薬戦争において社会に害を及ぼしてきた政治家は他にいません。
まず、理解しておかなければいけないのは、今、世界では麻薬(大麻を含む)に対するアプローチが劇的に変化しているという事です。日本では主要メディアが伝えないために真の情報が入ってきにくい状態ですが、世界は着実に動いています。
2011年6月、国連の薬物政策国際委員会は薬物戦争に関する批判的な報告書を公表し、
「世界規模の薬物との戦争は、世界中の人々と社会に対して悲惨な結果をもたらし失敗に終わった。
国連麻薬に関する単一条約が始動し、数年後にはニクソン大統領がアメリカ合衆国連邦政府による薬物との戦争を開始したが、すでにそれから50年が経ち、国家および国際的な薬物規制政策における抜本的な改革が早急に必要である」と宣言しました。
つまり、これまで行ってきた薬物行政が間違いであった事を、国連が自ら認め、大きく方向転換する必要性を各国に呼び掛けているのです。その方向性とは、「非犯罪化」と「ハーム・リダクション」です。
なぜなら、麻薬戦争が始まった50年前と比較して、教育の質と共に人々の人権に対する意識が向上し、「被害者の存在しない薬物犯罪に厳罰で対処するのは人権侵害である」という認識に変わってきたからです。
情けない話ですが、こうした世界的な動きに反対票を投じているのはアジア諸国で、その筆頭は日本です。
こうした時代の変化の中で、「親切なジョーおじさん」が擁護してきた過去の薬物政策によって人生を台無しにされた何百万人もの人々に対して、彼は自分のキャリアを胸を張って語れるでしょうか?
それでは、彼のキャリアを振り返ってみましょう。
麻薬戦争の(不当な)立役者
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この数十年の間にアメリカ政府の行ってきた麻薬戦争の主導者の多くは、すでに引退または亡くなっています。バイデン氏は、こうした旧勢力の中でまだ権力を保持している数少ない人物の一人です。
デラウェア州の上院議員として、強力な上院司法委員会の議長を務めた1980年代から、薬物政策と大量収監に関する彼の影響は始まりました。
彼が推進した薬物政策は、
- 市民の資産没収の承認
- 麻薬関連犯罪者の大量収監の奨励
- 最低量刑の設定による執行猶予の撤廃
- 警察の軍事化
など、ジョー・バイデンはアメリカの薬物政策に関する悲惨なアプローチの原動力となってきました。
彼の主導してきた失策の数々は、彼が政界に参加した50年前当時には既に「失策」として分かりきっていたものばかりでした。
そして同様の自己破壊的な薬物政策が今日、アメリカだけでなく、世界中で怒りの渦を巻き起こしています。
アメリカは変わり、バイデンは変わらなかった
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この10年の間に、アメリカは変わりました。特に民主党は大麻合法化に大きく歩み寄り、今では実に2/3の民主党支持者が大麻合法化を支持しています。
一方、バイデン氏は依然として、連邦レベルでの大麻の合法化を支持していない数少ない著名な民主党員の一人です。現在、大麻合法化はアメリカ人の62%(共和党員の45%を含む)によって支持されており、すでに30州では医療用が、そして11州では「完全に」合法化されています。
しかし、少なくともバイデン氏は、時代と世論が彼の周りで変化しているという事実を知ってはいるようです。
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彼は1980年代には薬物政策について多くのことを率直に語っていましたが、その後10年近くこの問題について沈黙を守っていました。
彼が実質的に大麻合法化に向き合ったのは2010年が初めてのようで、ABCニュースのインタビューで
「数オンスの所持で人を刑務所に送ることと、それを合法化することには違いがあります。
確かに、罰は犯した罪に見合うべきです。しかし、合法化は間違いだと思います。
マリファナはゲートウェイ・ドラッグであると今でも信じています。私は、これまで長い期間、司法委員会の議長としてこの問題に対処してきました」
と語っています。
この発言は、それまで数十年もの間、自分が「薬物事犯の大量収監」という政策を推進してきた事実と矛盾しています。
そしてもう一つ、ここで彼が自身のキャリアと絡めて誇らしげに語っている「ゲートウェイ・ドラッグ」という言葉には問題があります。なぜなら、ゲートウェイ理論は長い間徹底的に間違いであることを暴かれてきており、今では非科学的なトンデモ理論として扱われているからです。
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長年、アメリカの子どもたちに間違った薬物に関する教育(政府のプロパガンダ)を行って生きた悪名高き D.A.R.E.という教育プログラムですら、今ではこの時代遅れのセオリーを宣伝しなくなりました。(日本は相変わらずですが。。。)
つまり、「自分の経験からゲートウェイ理論を支持する」と語ったバイデン氏は、この発言によって、自分の経歴が無意味であった事を自ら証明しているのです。
しかも、呆れた事に彼は、昨年11月の討論会でも同様の発言をしており、国民から失笑を買うと共に、他の候補から槍玉に揚げられてしまいました。
バイデン:「麻薬皇帝を作ろう」
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少なくともバイデン氏は、刑事司法に関しては、常に正しいわけではないようです。
彼は、コカインと比較してクラックに対し非常に厳しい処罰を推進しました。
この「1994 Crime Act」と呼ばれる法律は、貧困層や有色人種の居住地域での積極的な警察活動の強化に拍車をかけ、一方では、粉末コカインとクラックの不平等な量刑を確立しました。
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5gのクラック所持は、最小5年の懲役刑で、これは500gのコカイン所持と同罪で、実に100倍も重い量刑です。
コカインもクラックも元は同じ物ですが、コカインは高価なため有色人種のユーザーは少なく、その大部分は白人です。
それに対して、より安価で劣悪なクラックは、主に有色人種や貧困層しか使用していません。
どちらのドラッグも社会に与える害は同じであるのに、刑罰が白人ユーザーには軽いという法律は人種差別的と言われても仕方ありません。
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この法律は、想像を絶する規模での悲惨な事態を産みました。
バイデン氏の推進したこの法律が、「民間刑務所」の登場と共に「営利目的の刑務所産業」を産み出し、米国を収監者数世界一の刑務所国家に変える上で重要な役割を果たしたのです。
下のグラフは、米国における囚人の数の推移を示した物です。バイデン氏が薬物政策を推進した80年代から急激に増えている事が分かると思います。現在、その数は実に230万人にも上ります。そして、この内の45万人が薬物関連で懲役に服しているのです。
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しかし、その事について詳細を求められると、彼は、自分自身のそうした人種差別的な政策を取り消そうと「何年も費やした」と言います。
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説明責任に関しては、基本的にはこれで終わりです。バイデン氏は、これまで過去に自身が社会に与えた損害について全く受け入れていません。
民主・共和両党の政治家の多くは、「ジャスト・セイ・ノー(アメリカ版のダメ!ゼッタイ)」キャンペーンの時代には麻薬戦争を声高に支持しました。
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しかし、閣僚レベルの「ドラッグ・シーザー(麻薬皇帝)」という役職を作るというアイデアを思い描いたのはジョー・バイデンひとりでした。
「ドラッグ・シーザー」とは、米国連邦政府の薬物政策における全体的な責任者の事で、薬物政策における絶対権力者です。その呼び名は、1982年のニューヨーク・タイムズのインタビューでバイデン氏が作った言葉でした。
その後、レーガン政権と協力して働き、7年後にホワイトハウスが国家薬物規制政策局(ONDCP)を設立し、彼の夢が実現しました。そして、その後もドラッグ・シーザーという役職は連綿と受け継がれ、米国の薬物政策に巨大な影響を与えいます。
日本のダメより ダメゼッタイ。
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1996年にバイデン氏は上院で、アメリカ国民を対象とした大規模なプロパガンダキャンペーンをドラッグ・シーザーが主導することを要求する法案に投票しました。
その法案の内容は驚くべき物です。
この法律には、「局長(ドラッグ・シーザー)は、規制物質法のスケジュール1にリストされている物質の合法化(医学的使用またはその他の使用)に関連する研究または契約に、連邦から国家薬物規制政策局に割り当てられた予算が費やされないことを保証し、そのような物質の使用を合法化しようとする全ての試みに反対するために必要な措置を講じます」と書かれています。 要するに、大麻が安全で効果的な薬であることを示す証拠がどれほど明らかになったとしても、そして合法化による社会的利益が、取締りによる潜在的な害をはるかに上回ることを示す証拠がいくら積み重なったとしても、ドラッグ・シーザーは、それに関して反対する事を法律で義務付けられているのです。 これまでアメリカにおいて、規制当局と議会の間で繰り返されてきた「意味不明な」やりとりは、これで説明がつきます。 その原因は、全てがこの法律だったのです。
では、その「意味不明な」やりとりの一例を見てみましょう。
何を訊いても要点を得ないやりとりが続きますが、上記の法律に明記されている「ドラッグ・シーザーの義務」を念頭に置いて見てみると、彼女がのらりくらりと逃げ回る姿は、単純に彼女の仕事なのだという事がわかります。
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イエスですか?ノーですか? もし分からないなら調べなさい。 あなたは麻薬取締局の長官です。私は単純な質問をしているのです。
単純に科学的証拠の話で、あなたの専門分野であり、私は素人ですが、いくつかの研究を読み、その上で専門家であるあなたに質問しているのです。 ヘロインはマリファナよりも有害ですか?
こうした薬物は危険であるから違法であり、依存性があって健康被害があるから違法なのです。
ヘロインはマリファナよりも依存性があります。
こうした処方箋薬は依存性がありますか?
そこであなたが処方箋薬依存を最優先事項として取り上げているという事は、こうした薬はマリファナよりも依存性が高いという事ですね?
DEAは処方箋薬依存症を最優先事項として掲げましたが、それはマリファナよりも公衆衛生にとって有害ですか?
そのため最優先事項としました。
私は、あなたに大麻は処方箋薬と比較して依存性が低く、健康被害が小さいという科学的証拠について調べる事を勧めます。 では、こうした結果を鑑みて、最優先事項である処方箋薬依存問題解決のために、DEAは医療大麻を支持しますか?
そして有効な対策の一つが医療大麻の採用なのです。 最優先課題を解決するために医療大麻を検討しますか?
ここでは大麻を軸に、彼の大統領候補としての資質を検証してみましたが、この他にも「イラク戦争支持」や「300万人の不法移民追放」などの巨大な失策を繰り返してきた彼が、果たして多くの中道左派支持者が考えているような人物なのか、それは時代が証明する事になるでしょう。