
産業化には大きな課題
南アフリカ政府の支援を受けた新たな調査によると、同国は将来的に約25億ドル規模の産業用ヘンプ市場を構築できる可能性があるという。ただし、現段階では産業はまだ初期段階にあり、大規模な投資が動くためには規制、資金、産業基盤の大規模な連携が必要になると指摘されている。
この調査は、Localisation Support Fund(LSF)が大統領府、南アフリカ産業開発公社(IDC)、貿易・産業・競争省(dtic)と共同で委託したもので、ヘンプを複数の産業分野における新たな原材料として活用するためのロードマップを示している。
この取り組みは、2021年に発表された南アフリカの「National Cannabis Master Plan」に基づく政策方針を土台としている。この計画では、ヘンプと嗜好用大麻の両方を対象とした産業発展戦略が示されている。
Localisation Support FundのCEOであるIrshaad Kathrada氏は「産業用ヘンプは南アフリカの産業基盤を多様化し、製造業のバリューチェーンを強化し、農村経済を活性化する戦略的機会を提供する」と述べた。
ただし同氏は、このバリューチェーンを構築するには政府、産業界、金融機関の意図的な協力が必要になると強調した。
市場の見通し
報告書の著者は、ヘンプ産業が将来的に国内製造業の発展、農村振興、そして世界的なバイオエコノミーへの参入を支える可能性があると指摘している。しかしその実現には、規制の断片化の解消、加工能力の構築、そして組織化されたサプライチェーンの形成が不可欠だとしている。
報告書は、南アフリカの国内ヘンプ市場が2040年までに約400億ランド(約25億ドル)規模に達する可能性があると推計している。ただし、この数字は限定的なデータに基づいており、予測というよりも可能性を示す指標として捉えるべきだと強調している。
報告書が引用する世界市場のデータにも同様の注意が添えられている。
世界のヘンプ経済は、2025年の約100億ドルから2032年には約370億ドルへ拡大すると予測されているが、各国のデータは依然として断片的で一貫性がないとされている。
投資家や事業者にとってのメッセージは明確だ。市場の潜在需要は大きいものの、その根拠となるデータはまだ発展途上にある。
規制整理が最大の課題
報告書は、成長の最大の障壁として規制を繰り返し指摘している。
南アフリカでは現在、産業用ヘンプが広範な大麻関連法の中に組み込まれている。報告書は、ヘンプをDrugs and Drug Trafficking Actから明確に除外し、独立した産業規制の枠組みで管理すべきだと提言している。
大統領府およびIDCと連携する技術コンサルタントのGarth Strachan氏は、投資家や産業パートナーの信頼を得るためには規制の明確化が不可欠だと述べた。
ヘンプと酩酊作用を持つ大麻の法的区別が明確でない限り、企業はライセンス、コンプライアンス、製品開発の面で不確実性に直面することになるという。
これまでの業界議論でも、産業拡大の前提として政策の明確化、資本へのアクセス、市場開発の必要性が指摘されてきた。
報告書は、農業、保健、貿易、産業といった複数の政府部門の政策を整合させることが、大規模な加工インフラ投資の前提条件になると主張している。
需要を生む産業分野
この報告書は、ヘンプを単一の産業としてではなく、複数の産業分野で活用される素材として位置づけている。そして、初期の発展に適した5つの産業分野を特定している。
そのうち3つは比較的短期的な市場参入が可能な分野とされている。
食品・飲料分野は、ヘンプシードオイルやヘンプ粉、植物性飲料などが既存の油糧種子加工システムに組み込めるため、参入しやすい分野とされている。
また、ヘンプシードオイルを使った化粧品やウェルネス製品などのパーソナルケア分野も、中小企業が参入しやすい製造分野として挙げられている。
さらに、紙・パルプ分野では、ヘンプストロー(茎)を生分解性パッケージやセルロース製品の原料として活用できる可能性がある。これは南アフリカの既存の林業技術を活用できるためだ。
残る2つは、より長期的な産業発展を見据えた分野である。
一般繊維分野では、不織布や機能性テキスタイルにヘンプ繊維を利用する可能性があり、建築分野ではヘンプクリートや断熱材として大量のヘンプハード(茎の芯部分)を吸収する市場が期待されている。
南アフリカではすでに建築材料としてのヘンプの可能性を示す初期プロジェクトが実施されている。
農業経済と加工インフラ
報告書は、最終的に産業の拡大を決めるのは加工インフラだと強調している。
特に、ヘンプの茎を繊維とハードに分離するデコーティケーション(繊維分離)施設は、農業と製造業をつなぐ重要な産業基盤だとされている。
この施設がなければ、農家は収穫したバイオマスを販売する先が限られ、製造業者は安定した原料供給を確保できない。
南アフリカではすでに栽培基盤が形成されつつある。2022年以降、政府は1,725件のヘンプ栽培許可を発行し、Gauteng州、KwaZulu-Natal州、Eastern Cape州を中心に約29,000ヘクタールが対象となっている。
この基盤は生産拡大の土台となる可能性があるが、農家の収益性は加工施設の存在と安定した販売契約に大きく左右されると報告書は指摘している。
分析では、大規模な機械化農業モデルが最も高い収益性を示している。
クラスター型産業モデル
一方、小規模で労働集約型の農業は、近隣に加工施設がない場合、収穫や加工コストが高くなり採算が取りにくい。
これまでの報道でも、産業が拡大する中で小規模農家が取り残される可能性が指摘されている。
こうした問題に対応するため、報告書は農場、加工施設、製造拠点を地域単位で結びつける「クラスター型産業モデル」を提案している。
Eastern Cape州やKwaZulu-Natal州など、農業生産と産業基盤がすでに重なっている地域が候補として挙げられている。
また報告書は、初期インフラ投資を支えるために、公的資金と民間資金を組み合わせるブレンデッドファイナンスの仕組みを導入することも提案している。
編集部あとがき
今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。
1. 南アフリカのヘンプ市場は2040年までに25億ドル規模の可能性
政府支援の研究では、国内ヘンプ市場は最大400億ランド規模に成長する可能性が示された。ただし、この数字はまだ限定的なデータに基づく概算であり、確定的な予測ではない。
2. 最大の障壁は「規制の不明確さ」
現在ヘンプは大麻関連法の中に組み込まれており、産業用作物としての独立した法制度が存在しない。投資と事業化を進めるには、ヘンプを大麻法から明確に分離する必要がある。
3. 産業拡大の鍵は加工インフラ
デコーティケーション施設などの加工設備が不足しているため、農家と製造業をつなぐ産業基盤が欠けている。加工能力の整備が市場拡大の前提条件となる。
4. 産業は「単一市場」ではなく複数分野で成長する
食品、化粧品、紙・パルプ、繊維、建築材料など、複数の産業分野でヘンプ需要が生まれる可能性がある。特に食品やパーソナルケアは短期的な市場参入が期待されている。


