バイデン大統領の指示による見直し
2022年10月6日、米国のバイデン大統領は声明を発表し、保健福祉省(HHS)長官と司法長官に “マリファナが連邦法の下でどのようにスケジュールされているかを迅速に見直すための行政手続きを開始すること “を要請しました。
その結果、米国保健福祉省(HHS)の高官は23年8月29日、米国司法省麻薬取締局(DEA)局長宛の書簡を送付し、マリファナ(大麻)を連邦規制物質法(CSA)のスケジュールIIIに再分類するよう要請しました。
情報公開法(FOIA)要求を利用してスケジュール再分類メモの入手を求めていた弁護士マシュー・C・ゾーン氏が24年1月13日にブログにて、23年8月29日付けの252頁の勧告文書を一般公開しました。
日本臨床カンナビノイド学会では、252頁のうち、前半の78頁までの「マリファナ(大麻)を規制物質法のスケジュールⅢに再スケジュールする勧告の根拠」を仮訳しました。後半は、米国保健福祉省次官補室(OASH)によるCAMU(医療用途)評価の報告となります。
規制物質法(CSA)では、薬物のスケジュールを決定する 8 つの要素があります。
1.実際または相対的に乱用される可能性。
2.知られている場合、その薬理学的効果の科学的証拠。
3.薬物またはその他の物質に関する現在の科学的知識の状態。
4.その歴史と現在の乱用パターン。
5.乱用の範囲、期間、重大性。
6.公衆衛生にリスクがある場合、どのようなリスクがあるか。
7.その精神的または生理学的依存の責任。
8.物質がすでに管理されている物質の直接の前駆体であるかどうか。
勧告文書では、これらの8つの要素を詳細に検討しており、次の勧告を出しています。
勧告(本文の一部を抜粋)
1.マリファナ(大麻)は、乱用の可能性が スケジュール IおよびIIの薬物やその他の物質よりも低い。
・マリファナに対する一般的な反応として、多幸感などの肯定的な主観的反応のほか、知覚変化、鎮静反応、不安反応、精神医学的、社会的、認知的変化、生理的変化などがある。
・NSDUHの疫学的データによると、マリファナは、比較対象とした違法薬物の中で、過去1年および過去1ヵ月ベースで、米国で最も頻繁に乱用されている違法薬物である。
・非医療的使用の有病率が高いにもかかわらず、疫学的指標を総合的に評価すると、マリファナはスケジュールIまたはIIの薬物に比べて深刻な結果をもたらさないことが示唆されている。
2.マリファナ(大麻)は現在、米国で治療における医療使用が認められている。
・実施された州公認プログラムに従って活動する免許を持った医療従事者(HCP)によるマリファナの医療使用が米国で現在広く行われており、そのような医療使用がこれらの州の管轄下で医療行為を規制する各組織によって認められていると結論づけた。
・FDAは、CAMU(医療用途)テストのパート2の検討対象として7つの適応症を選択した。これらの適応症には、病状に関連した食欲不振、不安、てんかん、炎症性腸疾患、吐き気・嘔吐(化学療法によるものなど)、疼痛、心的外傷後ストレス障害などが含まれる。
・入手可能なデータは、米国でマリファナが臨床で使用されている治療用途のいくつかについて、ある程度の信頼できるレベルの科学的裏付けを提供している。
3.マリファナ(大麻)の乱用は、中等度または低度の身体的依存または高度の精神的依存を引き起こす可能性がある。
・大麻離脱症候群は、マリファナを慢性的に多量に使用している人において報告されているが、時々マリファナを使用する人におけるその発症は立証されていない。
・大麻離脱症候群は、焦燥、妄想、発作、さらには死亡といったより深刻な症状を含むこともあるアルコールに関連した離脱症候群に比べると、比較的軽いようである。
・精神依存を生じる人もいるが、深刻な結果をもたらす可能性は低く、マリファナを使用するほとんどの人に高い精神依存は生じないことが示唆される。
薬物のスケジュールについて
連邦規制物質法(Controlled Substances Act, CSA)は、薬物を5段階に分類しており、現在、マリファナ(大麻)はスケジュールIに分類されています。今回の勧告について、分類の最終権限は麻薬取締局(DEA)にあります。
等級 |
定義 |
勧告文書で比較対象となった薬物 |
スケジュールⅠ |
最も高い乱用性、一般に認められた医療用途がない、医薬品として安全性に欠如 |
ヘロイン、マリファナ(大麻) |
スケジュールⅡ |
強い乱用性 乱用により深刻な精神的・身体的依存 |
フェンタニル、オキシコドン、 ヒドロコドン、コカイン |
スケジュールⅢ |
ⅠとⅡより低い乱用性 乱用により中度の精神的・身体的依存 |
ケタミン、マリノール(合成THC) 勧告:マリファナ(大麻) |
スケジュールⅣ |
Ⅲより低い乱用性 限定的なⅢに関連した依存性 |
ベンゾジアゼピン、ゾルピデム、 トラマドール |
スケジュールⅤ |
Ⅳより低い乱用性 限定的なⅣに関連した依存性 |
|
対象外 |
アルコール、エピディオレックス(承認時はスケジュールⅤであった) |
何が画期的だったのか?
・2018年から産業用大麻が全米で合法化し、2023年8月時点で医療用大麻が50州中の38州が合法化され、嗜好用大麻も23州が合法化されている中で、スケジュール変更を勧告した点
・1970年の規制物質法(CSA)の制定以来、スケジュールⅠの位置づけが、科学的根拠がないという制定当時からの批判的主張が公式にようやく認められた点
・大麻草の天然THC(スケジュールⅠ)と合成THC(スケジュールⅢ)の矛盾が解消される点
・スケジュールⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳのそれぞれの薬物+アルコールで各種疫学データを用いて比較した点
・処方箋医薬品ではない医療用大麻(ハーブ/薬草)をCAMU(医療用途)の評価を実施した点
残念なポイント
・勧告文書が、米国保健福祉省(HHS)によって自主的に公開したのではなく、情報公開法(FOIA)要求を利用した弁護士マシュー・C・ゾーン氏であった点。
・マリファナ(大麻)は、嗜好品として合法化している地域が増えているため、比較対象としては、アルコールだけでなく、同じ嗜好品であるタバコ(ニコチン)、コーヒー(カフェイン)を加えるべきであった点。
・処方箋医薬品として流通するスケジュールⅣのベンゾジアゼピン、ゾルピデム、トラマドールの乱用と医療用/嗜好用で流通するマリファナ(大麻)の乱用の比較結果に妥当性があるかどうか疑問が残る点。
●日本語仮訳(勧告の前半部78頁)および全文原文(252頁)はこちらのリンク先へ
マリファナ(大麻)を規制物質法のスケジュールⅢに再スケジュールする勧告の根拠
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=144546