
大規模制度改革へ
欧州産業ヘンプ協会(EIHA)は、EUにおける産業用ヘンプの定義を歴史的に変更するよう求めており、法定THC上限を現行の0.3%から1.0%へ引き上げるべきだと主張している。これは現在の基準の3倍以上にあたる。
もし採用されれば、この変更はEUのヘンプ規制において数十年ぶりの大きな転換となり、農家、種子開発者、繊維・穀物サプライチェーンに大きな影響を及ぼす可能性がある。
EIHAは、次期「共通農業政策(CAP)」に関連した新しいポジションペーパーの中で、この変更を求めている。CAPはEUの主要な農業支援・農村開発の枠組みであり、次期(2028〜2032年)は、補助金対象となる作物や加盟国間の農業市場規制の方向性を左右する。
「EUは、科学と国際的な実務がすでに示している事実を認めるべき時です。ヘンプのTHC上限を1%にしても健康リスクはありません」と、EIHAのマネージング・ディレクターであるフランチェスコ・ミリッツィ氏は述べた。
「スイス、ニュージーランド、オーストラリアなどは長年この基準で運用しており、南アフリカも2%への引き上げを最近提案しています」
現行のEU基準であるTHC上限0.3%(これは畑で栽培される作物に適用される)では、農家が認証された産業用品種を植えていても、自然条件によりTHC値がわずかに上昇しただけで、コンプライアンス上の問題が発生する可能性がある。
EIHAは、気温や日照などの要因が畑でのTHC発現に影響を与えることを指摘し、農家が善意で栽培していても法的・経済的リスクが発生してしまうと主張している。上限を引き上げれば、意図しない違反による作物廃棄、補助金の罰則、契約破綻といったリスクを減らせるという。
「消費者の安全は畑のTHC値ではなく、最終製品の段階で確保されるべきです。現行の0.3%という上限は、登録品種であっても過剰な負担を生み、農家や事業者に不必要な法的不確実性を与えています」とミリッツィ氏は述べた。
品種改良が制限されている
EIHAはまた、現行基準が欧州の品種改良と種子供給のパイプラインを狭めているとも主張する。多くのEU品種は厳格な低THC制約のもとで開発されており、その結果、遺伝的多様性や収量の可能性が制限されてきた。
上限を1.0%に引き上げれば、育種家はより高性能な繊維・種子用品種を開発しやすくなり、EUの品種カタログの拡大や、暖かい地域で栽培が拡大する中で問題となっている認証種子不足の解消にもつながるとされる。
なお、ポジションペーパーでは直接触れられていないが、この変更はCBD事業者にも有利になる可能性がある。CBD含有量はTHCと比例して増える傾向があるため、生産効率が上がるためだ。
EIHAは、THCが1.0%以下のヘンプは依然として非陶酔性であり、嗜好用大麻とされる水準とは大きくかけ離れていると述べている。
THC上限の歴史
欧州におけるヘンプのTHC上限は、この40年間で何度も変更されてきた。
具体的な上限規制が導入された1980年代半ば、欧州は最大THCレベルを0.5%に設定した。その後0.3%に引き下げられ、さらに0.2%まで厳格化された。
これらの引き下げは、品種改良や種子開発に特に大きな影響を与えた。合法的に栽培できる品種の幅が狭まり、高収量遺伝子の研究も抑制される結果となった。
現在のEU共通基準は0.3%だが、ヘンプ生産が従来の主要地域以外にも広がる中で、この数値が低すぎるのではないかという議論が再燃している。
政策転換の可能性
欧州議会ではすでに0.5%への引き上げが議論されており、妥協案となる可能性がある。しかしEIHAは、1.0%こそがより明確で競争力のある基準であり、国際基準とも整合すると主張している。
欧州ではチェコ共和国とスイスが1.0%を採用しており、オーストラリア、ニュージーランド、ウルグアイなども同様に1.0%を上限としている。
EIHAはまた、気候変動(気温上昇)も重要な要因だと指摘する。暖かい地域では、認証種子を使っても自然にTHC値が上昇する場合があるためだ。
市場基準の整備
EIHAの第二の提案はより技術的だが、商業面で大きな影響を持つ可能性がある。それは、EUの共通市場規則における「マーケティング基準」の対象にヘンプを明確に含めることだ。
簡単に言えば、これにより欧州委員会は、ヘンプ製品の品質、表示、流通透明性に関するEU統一ルールをより明確に定められるようになる。
マーケティング基準は他の農産物分野でも、詐欺防止、品質の統一、競争の公平性確保のために活用されている。EIHAは、ヘンプ市場もすでに十分に大きく多様化しており、特に国境を越えた取引が増える中で、同様の仕組みが必要だと主張している。
業界にとっての意味
EIHAの二つの提案は、より大きな戦略を示している。つまり、栽培上限の引き上げによって農業と育種を支えつつ、市場側の基準整備によって製品の信頼性と競争環境を守る、という構図である。
一方で、THC上限引き上げは加盟国によって受け止めが異なる可能性がある。麻薬取締りはEUの農業政策とは別に、各国が強い権限を持つ領域だからだ。
「一部加盟国から抵抗があることは想定しています。しかし0.3%より高い上限は科学的にも正当であり、経済的にも必要だと確信しています」とミリッツィ氏は述べた。
全草ヘンプの扱い
欧州委員会は昨年、ヘンプの全草(花を含む)をEU法上の農産物として正式に認めるという画期的な変更案を提示した。これが実現すれば、ヘンプが他の一般作物と同様に扱われることで、法的明確性と市場アクセスが拡大する可能性がある。
ミリッツィ氏は、EIHAは長年この明確化を求めてきたと述べ、今回の提案を重要な前進と評価している。
「欧州委員会が全草を認める提案を出したことを強く歓迎します。そして、農業現場の現実を反映した1%というTHC上限によって、この改革を補完するよう立法側に求めます」と述べた。
編集部あとがき
今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。
1. EUヘンプ定義の根幹を変える「THC上限1%」提案
EIHAは、EUの産業用ヘンプのTHC上限を現行0.3%から1.0%へ引き上げるべきだと主張している。採用されれば、農業政策・補助金制度・種子市場を含むEUヘンプ産業全体の前提が大きく変わる可能性がある。
2. 現行0.3%は農家にとって“偶発違反”リスクを生む
気温や日照など自然条件によってTHCがわずかに上がるだけで、農家が法的リスクや契約トラブルに直面する。EIHAは、この「畑での数値」を重視する仕組み自体が非合理だと指摘している。
3. 低THC規制が育種と収量向上を止めてきた
厳しい上限により遺伝子多様性が狭まり、高収量品種や新たな繊維・種子向け品種の開発が制限されてきた。1%へ引き上げれば、EUの品種カタログ拡大と種子不足問題の緩和につながる可能性がある。
4. 「栽培上限の緩和」+「市場基準整備」で産業化を加速させたい
EIHAは、栽培規制を現実に合わせるだけでなく、EUのマーケティング基準(品質・表示・流通透明性)にヘンプを組み込み、単一市場としての整備を進めるべきだと提案している。農業と市場の両輪で産業としての地盤を固めようとしている。


