
カナダの規制合理化の概要
カナダは、1998年に産業用ヘンプの合法化、2003年に医療用大麻の合法化、2018年に嗜好用大麻の合法化を経て、先進国の中でこの分野の法制度運用の最も経験のある国として知られています。
産業用ヘンプの定義をTHC 濃度0.3%未満と規定し、カナダ保健省が認めた品種リストのみの栽培が許可されます。1998年当初からヘンプシード由来の食品のTHC含有量を10ppm(0.001%)未満にしてきました。
カナダ保健省(Health Canada)は、2025年3月12日に大麻規制(Cannabis Regulations)および産業用ヘンプ規制(Industrial Hemp Regulations: IHR)の大規模な改正を施行しました。この改正は、業界の負担を軽減し、市場の効率性を高める「合理化(Streamlining)」を目的としています。主なポイントは以下の通りです。
1. 産業用ヘンプの派生品に関する大幅な緩和
最も大きな変更点の一つは、ヘンプ由来の特定の製品に対する免許要件の撤廃です。
・免許不要の拡大: 非発芽処理済み(非生存性)のヘンプ種子から作られた派生品(オイルや加工品など)について、大麻法に基づく免許や許可なしに、輸入、輸出、販売、加工が可能になりました。
・THC濃度の制限撤廃: 非発芽処理済みのヘンプ種子から作られた派生品に課されていた「THC濃度10ppm(0.001%)以下」という制限が撤廃されました。
・茎(Stalks)の加工: カンナビノイドの濃縮や単離を行わない限り、産業用ヘンプの免許なしで茎を加工できるようになりました。
2. 輸入・輸出プロセスの簡素化
ポート(港)情報の柔軟化: 輸入・輸出許可証において、これまで必須だった「入国・出国の具体的な港の名称」や「税関所在地」の記載が不要になりました。これにより、物流の遅延や変更に柔軟に対応できるようになりました。
3. セキュリティ要件の緩和
警備員の常駐義務の廃止: 大麻(ヘンプ含む)の取り扱い活動を行っている間、セキュリティクリアランスを持つ人物(政府機関による厳格な身辺調査をクリアし、信頼性が証明された人物のこと)が常に現場にいる必要がなくなりました。
保管場所の規制緩和: 保管エリアへの出入り記録の保持義務がなくなるなど、物理的なセキュリティ対策がより柔軟になりました。
4. パッケージとラベルの表示ルール変更
ラベル情報の簡素化: 「乾燥大麻換算量」や「有効期限が未設定である旨」の記載が不要になりました。
QRコードの解禁: ラベルにQRコード(または追加のバーコード)を記載することが許可され、消費者がデジタルで詳細情報にアクセスできるようになりました。
透明なパッケージ: 乾燥大麻や種子について、中身が見える透明な窓やパッケージの使用が可能になりました。
5. 研究・開発の促進
研究用大麻の所持: 非人間・非動物を対象とした研究(素材開発や成分分析など)であれば、最大30gまでの乾燥大麻を免許なしで所持できるようになりました。
花粉の流通: 新たに花粉(Pollen)の販売や流通が許可され、植物遺伝学の研究や品種改良が加速される仕組みが整いました。
本改正によるカナダ政府側の追加費用はわずか約155万円(10年間)にとどまる一方、大麻事業を行う規制対象事業者には約 325億 6,000 万円(10年間)の便益が見込まれ、大麻を取り使う中小企業に対しても約289億 8,500 万円(10年間)のコスト削減効果があると推定されています。
カナダにおける大麻に該当しないもの
カナダでは、大麻法(Cannabis Act)に付属する別表Schedule 2(スケジュール2)で、「大麻に該当しない(=大麻法の規制対象から除外される)部位・物」を列挙したリストがあります。
・成熟した茎(stalk)
・成熟した茎から得られる繊維
・種子(seed / grain)
・種子から得られる派生物(オイル、ミール等) ※ミール=搾油後の搾り粕
・上記に由来する非生存(non-viable)派生物
(例:ヘンプシードオイルカプセル、家畜飼料・ペット用ヘンプシードミール)
Canada Gazette(官報)に掲載された Regulatory Impact Analysis Statement(RIAS:規制影響分析書の中で、リスクに比べて過剰な負担と評価されています。評価のポイントを紹介すると、
(1)スケジュール2の「大麻に該当しないもの」に含まれているのに、種子の派生物(オイル、ミール等)に対して、THC濃度10ppm(0.001%)規制を1998年から27年間も続けてきた矛盾があります。
(2)規制対象とすべきリスクは「分離・濃縮されたカンナビノイド(抽出物)」であり、種子の派生物はそこに該当しない。規制を緩和しても公衆衛生・安全の目的を損なわない。
(3)従来の10ppm規制による検査コストは、民間側の負担が過大といえます。
(1)~(3)に理由により、規制が撤廃されました。
一般的に、ヘンプシードオイルの製造では、搾油効率や品質管理の観点から、搾油前に種子へ加熱処理が施されます。そのような通常の食品加工工程により、種子は発芽能力を失い、結果として non-viable(非生存=非発芽処理)となります。そのため、規制合理化後も搾油工場としては加工許可を持って搾油するという従来どおりの対応となります。
重要なのは、加工許可をもった搾油工場が非発芽処理を蒸気加熱、赤外線等で行い、100%発芽しないことをサンプルテストして、その記録を残しておくことが求められます。衛生管理の国際的な手法HACCP(ハサップ)の事業者であれば、PCP(予防的管理計画)+記録保持で運用することになるでしょう。
但し、非発芽処理していない生の種子、生の種子から搾油したオイルやそのミール(搾油カス)は、10ppmの規制対象となります。規制合理化後も非加熱・生絞りオイルというビジネスモデルだけが規制対象となります。
THC/CBD抽出物、花・葉の取扱いは、ヘンプ免許だけでは不可
ヘンプ栽培免許では、花や葉がカナダの法律上の「大麻」に該当するため、取扱いできません。医療用大麻や嗜好用大麻の栽培免許(標準栽培免許又は小規模栽培免許)を取得する必要があります。THC濃度で区別されておらず、植物部位規制となっています。
カナダの大麻法に基づき、標準栽培免許、小規模栽培免許、加工免許、医療用販売免許、嗜好用販売免許、輸出入免許、研究栽培免許が整備されています。
そのため、THC濃度0.3%以下のヘンプを栽培する免許とは別に上記の加工免許があれば、CBDを抽出して製品化することが可能です。
日本の制度への教訓
日本では、新しい大麻栽培法/麻向法において、ヘンプシードオイル、ヘンププロテインパウダーは、「大麻草の種子又は成熟した茎の形状を有しない製品」であるため、第一種大麻草採取栽培者が半年間限定の加工許可申請が必要となり、さらに製品化後は、CBDオイル製品と同じ10ppm規制の対象となります。
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旧・大麻取締法(1948年制定) |
大麻栽培規制法(2023年制定) |
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第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。 |
第二条 この法律で「大麻草」とは、カンナビス・サティバ・リンネをいう。 2 この法律で「大麻」とは、大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。)をいう。 |
THC濃度0.3%以下の大麻草は、科学的および実質的に「麻薬」でないにも関わらず(※)、形状を有する花/葉、形状を有しない花/葉の加工品、種子の加工品までも、法律的に「麻薬」に該当するので厳格な管理が求められます。この点が栽培農家に過度な負担を強いていると考えられます。また、日本では、カナダのように加工専門の免許がないので、外部への委託加工が考慮されていない点が課題です。
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大麻草の栽培の規制に関する法律の附則(令和五年一二月一三日法律第八四号) (検討) 第二条 政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この法律による改正後のそれぞれの法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。 |
改正法は、2025年3月1日に施行されており、その5年後(2030年)の見直しが附則第二条に「見直し条項」として明記されています。栽培者だけでなく、加工業者、流通業者、自治体や研究機関、法律家、消費者団体等が制度運用の矛盾点や過剰負担となる規制についての知見を蓄積していくことが求められています。
カナダの10ppm規制の撤廃を参考にして、まずは種子の加工品の取扱いについて利害関係者同士の対話を進めていくべきでしょう。
※杉江謙一, 阿久津守「繊維型大麻草およびその濃縮物中のカンナビノイド含有量の調査」『日本法科学技術学会誌』(2019 ). doi:10.3408/jafst.763
参考資料
規制変更の概要ページ
官報(Canada Gazette)の全文
https://gazette.gc.ca/rp-pr/p2/2025/2025-03-12/html/sor-dors43-eng.html
ヘンプ産業向けのFAQページ


