ヨーロッパ規格に歩調を合わせ、種・繊維産業への本格参入へ
アルゼンチンが、3年間の試験栽培を経て、ポーランドの2つの実績あるヘンプ品種を公式種子カタログに登録した。これは、同国が国際基準に沿った産業用ヘンプの本格的な商業生産体制を築くための第一歩となる。
登録が行われたのは「National Cultivar Registry(国家品種登録簿)」で、今回の登録に続き、すでに評価中の他品種も追加される見通しだ。
登録されたのは、ポーランドの「Henola(ヘノラ)」と「Białobrzeskie(ビャオブジェスキエ)」。これらはブエノスアイレスを拠点とするIHS Crops社が中心となり、複数の国機関と連携して導入を進めた。
両品種を開発したのは、ポーランドの国立研究機関「天然繊維・薬用植物研究所(IWNiRZ)」。これまでオーストラリアから米国に至るまで、幅広い環境下で高い成果を上げている。
実績ある2品種 ― HenolaとBiałobrzeskie
Henola は、2017年に発表された短期成熟型の多収穫穀物品種。Białobrzeskie は1960年代に育成された伝統的な品種で、繊維と種の両用途で評価が高い。
両品種はいずれも、ヨーロッパの厳格なTHC0.2%基準で育種され、国際的な試験においても上位にランクインしてきた。
IWNiRZはポーランド政府直轄の研究センターで、国家ヘンプ遺伝子プログラムを運営。種子認証・育種・応用研究を包括的に担っている。
一方、IHS Cropsはブエノスアイレス大学(FAUBA)農学部と提携し、国際的なヘンプ遺伝子とアルゼンチン生産者の橋渡し役として位置付けられている。
試験はINASE(国家種子研究所)、INTA(農業技術研究所)、SENASA(食品安全品質庁)、そしてARICCAME(産業用ヘンプ・医療用カンナビス庁)の監督のもと実施された。
「南米、とりわけアルゼンチンにおける産業用ヘンプの発展には本当に感銘を受けている」IWNiRZ ヘンププログラム責任者 ウィトルド・チェシャク氏
ポーランド側は2022年以降、知的財産や育種技術の共有を進めており、研究者・企業・農家を含むアルゼンチン代表団を現地に招いてバリューチェーン全体の学習ツアーを開催した。
「我々の遺産を世界に広げ、新しい地域がローカル産業を築く手助けをすることが最良の方法だ」と、チェシャク氏
法制度と運用フレームの整備
アルゼンチンでは2022年にヘンプと医療用カンナビスが合法化され、同時に監督機関「ARICCAME」が設立された。さらに2023年8月の政令で、THC上限を1.0%に設定し、複数省庁を一元的に連携させる「ワンストップ制度」が導入された。
この制度により、種子・穀物・繊維の生産が正式に許可されたが、CBD製造・商業販売は依然として除外されている。
患者向けのCBD製品輸入は処方箋付きで認められているものの、国内生産はまだ進められていない。
豊かなポテンシャル 、アルゼンチンの次なる一手
アルゼンチンは、広大な農地・温暖な気候・高い科学技術基盤を兼ね備え、
ラテンアメリカで最も有望なヘンプ生産国の一つとされてきた。
政府は、食品(オイル・プロテイン・粉類)から建材、繊維、セルロース、バイオプラスチックに至るまで、多分野にわたる市場開拓を視野に入れている。
近年は、研究開発への資金投入、国営ヘンプ技術会社の設立、雇用創出と輸出拡大の具体的な数値目標も掲げており、今回の品種登録はその中核をなす動きとなる。
編集部あとがき
今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。
1.ポーランド品種の正式登録で国際水準へ
HenolaとBiałobrzeskieの登録により、アルゼンチンは国際的なヘンプ市場に足並みをそろえた。
2.官民連携による制度設計
IHS Cropsが中心となり、複数の国家機関が監修する形で育種・試験・登録のフレームを構築。
3.ポーランドとの協働による知識移転
育種ノウハウと技術交流を通じて、南米全体のヘンプ技術基盤を強化。
4.産業構築の次段階へ
法整備・研究支援・国家技術機関設立を背景に、種・繊維・食品を柱とした本格産業化へ。