ケベックで開催された国際ヘンプ建築協会(IHBA)による第7回ヘンプ建築シンポジウムには、14か国から合計76名の代表が参加した。IHBAの会長スティーブ・アリンは、興奮冷めやらぬ中、イベントについて以下のように振り返る。
国際麻建物協会
会長・スティーブ・アリンより
今年、モントリオールで開かれた第7回シンポジウムが開始されたのは、偶然にもちょうど、ガブリエル・ゴシエがイブ・クーンとヘンプ建築をめぐるコースに参加したときから20周年にあたる日だった。
したがって、ヘンプ建築の時代がようやく訪れたと言えるのかもしれない。これまでの期間に我々が経験してきたことは、今がこのシステムを全面的に展開し始める時であることを確固として裏付けるものであり、幅広いプレゼンテーションの内容を吸収すべく、北米大陸から多くの人が出席していた。
出張時期が重なった
最も活動的な2人のヘンプ建築研究者の海外出張予定が、偶然にも、今年のIHBAのイベントと、とてもきれいにマッチした。ENTPEのフレデリック・サレー及びステファン・ハンスは、IHBAの会員であるZegreen研究所を訪問後、コスタリカから戻ったばかりであった。したがって、彼らに本イベントに立ち寄ってもらい、彼らの研究の成果を発表してもらうことができた。
まず始めにプレゼンテーションを行ったのはステファンだった。それは、木骨に麻製の吹き付けヘンプクリートを詰めることによる、構造上の改善の研究についてであった。実際、通常の「地震」によって壁板にかかる圧力に耐える能力が2倍になったという。
その後、フレデリックが助手のアシュレイ・ジャボーグとともに、「ヘンプ建築」システムを代替する同等の植物性材料についての最新研究について発表を行った。この研究は、Zegreen研究所から委託されたものであり、当初、ヘンプ、ススキ、コーヒーの外皮、亜麻繊維、もみ殻、イラクサの芯、バガス(訳注: サトウキビやテンサイなどの搾りかす)、ヒマワリの搾りかすの8つの材料を比較した。そのうちいくつかについては期待できる結果であり、その他は結合剤とうまく反応しなかった。
ヘンプの代替?
ヘンプの代替として最善なものとして選ばれたのはバガスであった。その理由は、当初の実験での結果が良かったことと、世界で最も幅広く栽培されている穀物の一つであり、コスタリカや世界の多くの地域で幅広く入手することができる材料だからである。その後の実験においても、バガスは、少なくとも対象地域でヘンプの栽培が確立するまでの間、確実にヘンプの代替候補となりうることを示した。
ENTPEは、フランスにおいて麻による建築材料を調査してきた主要な研究機関であり、フィオン・マックグレゴールは、その代表として、吹き付けヘンプクリートの温度による状態変化に関する研究結果を発表した。この研究結果は、我々が知る「水蒸気がヘンプにとって良い」という事実を測定し、その効果を説明することが難しいという問題を明らかにした。
英国及びアイルランドの研究から。。。
コーヒーブレークと充実したネットワーキング・セッションの後、英国及びアイルランドによって実施された研究の結果が発表された。ニール・ホルクロフトは、以前、英国バース大学の修士課程の際に、ドイツでの第5回シンポジウムにおいて発表を行ったことがあり、彼に再会できたのは本当に喜ばしいことであった。彼は、現在、カナダ国立研究委員会に勤務しており、モントリオールに出向くのは問題なく、石材壁の断熱材としてヘンプクリートを使うことについての最終研究結果を発表した。
その後、我々は、ダブリン技術研究院(Dublin Institute of Technology)の前期修士課程にあるリアム・ドノホーの、ヘンプクリートの分類に関する研究のプレゼンテーションを楽しんだ。これほど多くの種類の材料について実験が行われることは非常に稀であり、その最終結果は、地元で材料を調達したいと考えているすべての者にとって非常に貴重である。
。。。メキシコの木造型枠へ
すべての学術発表は、このイベントで後に発表される他のプロジェクト、プレゼンテーションとぴったりつながっており、メキシコのスティーブン・クラークによって実施された研究は、ヘンプクリートを木製型枠に使用することによる構造的改善の研究に関連したものだった。彼の研究は、他の代替繊維についてであり、ココナッツをヘンプの代わりに使用したものであった。イベント初日の遅い時間に行ったサン・ジャン・サー・リシュリューの町への現場視察においては、ニールとフィオンによる、温度による状態変化に関する両研究結果があてはまることが確認された。
我々のシンポジウムでは、腰かけてプレゼンテーションを聴くことの合間に休憩をとり、各国の代表者が会場の外に出て、議論していることに関連する、実際の各プロジェクトや活動を訪問する時間をもうけるというのが常に重要な要素を担っている。シンポジウムの会場の隣にある教会及び司教の家屋は、Artcanによって、吹き付けヘンプクリートとヘンプ製の漆喰を使用して美しく改修されており、ガブリエルは、集まった代表者らに対し、その修繕の背景や作業の詳細を説明した。すべての人は、完成した建物内の空気と音響の質に関心し、多くの人は、幼いころに祖父母と漆喰を塗ったことを思い出させるような心地良い匂いについて話していた。
2日目: 夢を追う者たち
2日目は、夢追う者からの夢についての発表から始まった。これこそがすべての計画の始まりである。ケープブレトン島のドナルド・ゴシエとその息子であるフェランは、ヘンプの栽培を始めるための基礎準備を確立するための、アルカディア大学との共同研究について発表した。
長期にわたってIHBAの会員であるヴァレリー・ブリンは、神経質さを克服し、まずカナダで最も小さい州であるプリンス・エドワード島でヘンプの栽培を確立しようと探求していることについて語った。彼女はそこで、いくつかのクラスに参加し、自分の家のポーチで断熱効果を実験したりして、ヘンプを建築素材として使用する可能性を探求しているという。現在彼女は、ヘンプ製の小規模な移動住宅に含まれる、ヘンプ製移動住宅のデモ用ユニットを集め、北米大陸をめぐることを計画している。
ヘンプの建築用ブロック
夢は、何らかの価値があり、それを実現する方法を示せば、いつか実現するものである。私は、JustBioFiberのテリー・ラッドフォードを招待し、彼の新しいヘンプクリート製の建築用ブロックについて説明してもらった。このブロックは、レゴからインスピレーションを得て、交互に連結した内部骨組みブロックとして、これを使用した建物が初めてバンクーバー島に建てられており、最近テレビで大々的に取り上げられた。
その他の夢は十分に練られた計画に沿って実現した。バーモント州のHelpfully Greenのエミリー・ペイトンは、州知事の候補として活動したことも含め、これまで積極的に関与し行動してきた結果、ジョセフ・キンコッタを雇い、旗艦となる建築をデザインしてもらうに至ったことについて説明した。これは文字通り、船又は「方舟」の形をしており、計画は優雅であり十分に練られたものであった。
私が最も興味を抱いたのは、スティーブン・クラークのメキシコでの仕事について聴くことであった。何年も前に、スペインでの第2回シンポジウムで初めて会ったときから、断続的にコンタクトとり続けてきたからである。彼のプレゼンテーションは期待に適うものであり、新しい結合材を開発する活動から、ヘンプと一緒又はその代替として使用しうる他の自然素材を活用する活動まで、彼の幅広い活動について明快な説明が行われた。
スタンディング・オベーション
彼のココナッツ繊維の実験は大いに成功を収めた。それは、特に沿岸地域に対し、ヘンプの代替品を提供するだけでなく、特に最近の地震以降メキシコで行われている建築において、ヘンプの導入を可能にするための起爆剤としても機能しうる。彼は、各国の代表者らからスタンディング・オベーションを受けた。
休憩後、我々は、カナダで最も長期間自然素材の建築を手がけている2人によるプレゼンテーションを聴いた。本会を主催したガブリエル・ゴシエは、自身の会社Artcanにおける過去15年間にわたる自身の活動について説明を行った。彼がケベック地域で従事してきた、極めて幅広い数々のプロジェクトが紹介された。
クリス・マグウッドは、元々、ストローベイル(ワラ俵)建築に焦点を当てていたが、最近ではオンタリオ州ピーターボローの新拠点Endeavour Centreでヘンプクリートを扱うことにした。彼は、自身のプロジェクトにハイライトを当てるのではなく、建築部門における最も緊喫の課題について紹介し、あまり触れられることのない二酸化炭素の話題に光を当てた。
彼は、ヘンプベースの素材を使用することによって、資材製造からの二酸化炭素排出だけでなく、その後の建物での使用によっても、二酸化炭素削減に莫大な貢献ができる旨を、非常に明快に、見事な様子で、その概要を説明した。これは、私自身世界に向けて注意を喚起しようとしてきたことであり、クリスのプレゼンテーションは、我々全員にとって、その任務をはるかに容易にするものであった。
ヘンプ製の移動住宅
昼食後、ウクライナのヘンプクリート事情について、セルゲイ・コヴァレンコフからのプゼンテーションを聴講した。彼は、自身のこれまでの活動について紹介し、最後に、最近彼がサンディエゴで関わったヘンプ製移動住宅プロジェクトについて紹介した。それは、新しく塗ったヘンプクリートの壁のあるトレーラー・ハウスを展示するため、町中を走行させ、戻ってきたというものであったが、その間壁が崩れることはなかったという!彼も聴衆から大きな喝采を受けた。
次のプレゼンテーションは、ネパールのShah. Hemp, Inno-Ventures (SHIV) のディラージ・K・シャーを予定していたが、残念ながらカナダの移民当局は別の考えの下、彼に対するビザの発行を拒否した。その結果、彼のプレゼンテーションはスティーブ・アリンによって行われた。スティーブは、SHIV が、飛躍的に成長していると説明し、初めてヘンプ製の壁をジャナクプルに新設された病院の待合室に用いたことに始まり、被差別カーストのダリットのコミュニティのための家を建築したこと、ここ1年半の間はモンテッソーリの学校を建築したこと、来年もヘンプクリートを使用して、いくつかの住宅建築及び病院の大規模拡張を計画していることを紹介した。
ディラージと妻ニヴェディタが完成させた、膨大な量の建築物を見た後では、彼に対するビザ発行拒否の理由が、ネパールで仕事を持っているを証明できなかったことにあったというのは、とりわけ皮肉に思われた!
漆喰塗りの芸術
ネパールでの原始的なジャングル由来の素材について聴いた後は、職人アンソニー・ネロンの指揮のもと作成された、Art du Chanvreによる最も優れた仕上げの作品の紹介に移った。彼は、我々に、自身の手による数々の見事なヘンプクリートとヘンプ製漆喰の作品例を見せた。アンソニーは、芸術の倫理的及び情緒的側面を説明することにも熱心であった。
本イベントは、バンクーバー沖のボーエン島で20年間ヘンプクリートに携わってきた、ジェイソン・ヘンダーソンとキム・ブルックスの夫婦によって締めくくられた。ジェイソンは、2009年に私の故郷であるアイルランドのケンマールで第1回シンポジウムを立ち上げる際に支援をしてくれた。彼が自身のコンセプトをさらに展開させているのを見るのは素晴らしいことだった。彼の会社Hempcrete Natural Buildingは、現在、必要があれば移動させることのできる、少なくとも土地の周辺を動かすことのできる、完全なヘンプ製住宅を提供している。完成ユニットを現場に持ち込み、そこで各ユニットが組み立てられ、建物が完成する。
本プログラムにおいては、多くの議論が行われた。このようにして本イベントは終了し、終わりには、組織委員会(私の妻アイア)に対し、各国の代表者から寛大な喝采が送られた。
(HEMPTODAY 2017年10月27日)