
CBDの摂取上限を「1日2mg」に
欧州CBD業界にとって大きな打撃となる動きとして、欧州食品安全機関(EFSA)がCBDの安全摂取量の基準を「1日わずか2ミリグラム」に設定した。これは多くのCBD製品が、体感できるほどの量を含めないレベルになってしまう可能性がある。
この判断により、合法市場に残ろうとする企業にとってのハードルは一段と高くなった。今後は、より高い摂取量でも安全であることを示す長期的な証拠が求められ、さらに「規制当局が許容する量」と「消費者が求める量」が一致するかどうかが業界の賭けとなる。
今回、EUの食品安全機関が初めて「安全摂取量」を示した形ではあるが、EFSAの専門家パネルは暫定的な安全摂取量として「体重1kgあたり0.0275mg」という極めて低い数値を設定した。体重70kgの成人で換算すると、1日約2mgに相当する。
業界が求める基準との巨大なギャップ
この基準は、欧州産業用ヘンプ協会(EIHA)が以前提案していた「最大1日17.5mg」という上限と比べて大幅に低い。EFSAが採用した慎重な毒性評価と、業界側が「現実的に商業利用できる」と主張してきた基準とのギャップが浮き彫りになった。
EIHAのマネージングディレクターであるフランチェスコ・ミリッツィ氏は、「CBDの安全基準がようやく示されたこと自体は歓迎する」としつつも、「今回の水準は不釣り合いに低く、利用可能な科学的証拠と我々の実施した研究結果を反映していない」と批判した。
同氏によれば、EFSAは非常に保守的な方法論を適用したため、安全水準が極端に引き下げられたという。
ただしEIHAは、消費者保護の重要性を認めつつも、ノベルフード(新規食品)評価は「証拠に基づき、バランスが取れ、効率的であるべきだ」と主張している。
それでもEIHAは、「EFSAおよび欧州委員会と協力し、未解決のデータ不足を埋めることで科学的に支持される水準に到達する」姿勢を示している。
ノベルフード審査の滞留と、再始動の兆し
CBDは嗜好用大麻のような酩酊作用はないが、不安軽減、鎮痛、抗炎症などの潜在的な治療効果が知られている。CBD製品は主に健康サプリメントとして流通しており、ヘンプオイルなどと混ぜて使用されるケースが多い。食品や飲料にも利用され、キャンディ、蜂蜜、ケーキ、クッキー、紅茶、コーヒーなど、さまざまな形で市場に出回ってきた。
EFSAは現在、およそ200件のCBDノベルフード申請を抱えているとされ、そのうち一部はすでに科学的審査段階に入っている。
しかしEFSAは2022年6月、「安全性データの不足」を理由に評価を一時停止していた。今回、1日2mgという基準を含む最新のリスク評価が公表されたことで、EFSAが審査を再び本格的に進める段階に入ったことを示唆している。
この流れは、EUのノベルフード規制下で承認を目指す申請者にとって、CBD市場の将来を左右する重要な転換点となる可能性がある。EIHAの関連団体であるEIHA Projects GmbHも、CBDアイソレート(分離抽出CBD)および合成CBDの申請を提出している。
今回の基準が極端に低いため、より高い摂取量で申請する企業は「申請条件を引き下げる」か、あるいは「長期摂取による安全性を示す強力な証拠」を提示する必要がある。特に肝機能への影響や慢性的な曝露が焦点になるとされている。
他国との比較:EUは突出して厳しい
EIHAは、EFSAが提案した暫定安全摂取量(約1日2mg)が、他国の基準と比べて極端に低いことを指摘した。
英国では、食品基準庁(FSA)が健康な成人に対し、食品由来CBDの摂取量を「1日10mgまで」とする予防的ガイドラインを示している。
スイスでも、当局が採用する基準として「1日12mg」という数値が引用されることが多い。
カナダでは、Health Canadaの諮問パネルが、経口CBDは短期(最大30日)使用において「20mgから200mg程度まで概ね安全で耐容性がある」と結論づけている。ただし、他の薬剤との相互作用を考慮し薬剤師と相談することが前提となる。
ミリッツィ氏は「この差は、リスク評価の比例性と整合性という観点で疑問を生む」と述べた。
EFSAの評価方法:慎重すぎる安全係数
EFSAは、CBD使用に関する証拠が不完全であることを理由に、追加の安全マージン(余裕幅)を適用したという。
また評価対象からは、25歳未満、妊娠中または授乳中の女性、薬を服用している人々を除外した。
EFSAは、CBDの長期摂取が肝臓、神経機能、生殖機能、免疫系に与える影響について未解決の疑問が残っていると指摘した。
なおEFSAは、今回の基準は最終決定ではなく、より強固なデータが集まれば改定される可能性があるとしている。
EIHA側は、同協会が推奨してきた基準であれば安全性を保ちながらも、健康効果を実感できる量を含むことができ、市場として成立する食品・サプリメントの形を維持できると主張している。
効果を感じる量と規制上限のズレ
1日2mgという基準と、業界が求めるより高い摂取量とのギャップを埋められるかどうかは、欧州CBD市場にとって致命的な問題となる。
CBD市場は「日常的なウェルネス効果」を軸に構築されてきたため、摂取量が少なすぎれば製品の存在意義そのものが揺らぐ。
業界関係者は長年、CBDサプリメントの現実的な使用量として「1日10〜20mg程度」が消費者の期待に沿うと主張してきた。
商業的な利害:市場はすでに停滞期
今回のEFSAの判断は、世界的にCBD市場が停滞する局面で起きた。
欧州CBD市場は規制が国ごとに分断され、グレーゾーンで販売されてきた背景があるため、公式な監査済み売上データは少ない。
市場アナリストは、欧州のカンナビジオール市場を2023年時点で約3億4,770万ユーロと推定している。一方、2020年には最大で16億ユーロに達するとモデル予測されていた時期もあった。
また、数少ない国別指標として、フランスのCBD市場は2023年に約6億ユーロの売上を生んだと推定されている。
新たな基準が生む“市場の再定義”
EFSAの新基準は、欧州CBD市場にとって「最も明確な科学的参照点」を提供したとも言える。しかし同時に、従来市場が支持してきた摂取量で承認を得るためのハードルを大きく引き上げた。
EIHA Projects GmbHは、EUと英国の承認制度に向けて、すでに約300万ユーロを研究に投じている。ミリッツィ氏によれば、そのためこの取り組みは止まらない。
同氏は「我々は、科学に基づくノベルフード承認を支えるために毒性データを積み上げてきた」と述べ、今後は2mg枠組みの中で進めつつも、追加の査読研究や独自研究を行い、証拠基盤を強化していく方針を示した。
EIHAの目標は明確で、「EUの安全摂取量を、科学的データが客観的に正当化する水準まで引き上げること」だという。
編集部あとがき
今回の記事を以下、4つのポイントに整理しましたのでご参考ください。
1. EFSAがCBDに「極端に低い安全摂取基準」を提示
EFSAは体重70kg成人で1日2mgという暫定基準を提示し、EUにおけるCBDノベルフード承認の前提条件を大きく引き上げた。
2. 商業市場の前提(10〜20mg利用)と完全にズレる
業界が「消費者が実感できる量」として想定してきた摂取量とEFSA基準の差は致命的で、従来型CBD製品の多くが“効果のない商品”になりかねない。
3. EFSAは「長期安全性データ不足」を理由に保守的判断を採用
肝機能や神経・免疫・生殖への影響について未解決の疑問があるとして、安全係数を上乗せし、評価対象者も限定した。
4. EUは審査再始動へ、申請者は「用量を下げるか証拠を積むか」の二択
約200件あるとされるCBD申請は今後動き出す可能性が高いが、2mgを超える摂取量を目指す企業は、追加研究でEFSAを説得する必要がある。


