麻薬捜査で押収された大麻を警察から貰うことが習慣に
「警察署での待ち合わせから始まり、大麻の香りで充満したバスの中、周囲のざわつきを感じながら移動をしていたのが、全ての始まりだった」と、故ミシューラム博士が後年回想している。
後に「大麻研究の父」となる彼は、ステロイドの研究をしていたレホボトのワイツマン科学研究所に戻るためにバスに乗り、テルアビブ警察からハシシを手に入れたところだった。
ミシューラム博士は、研究所長の勧めで、1960年代の最初の研究に使うために、麻薬捜査で押収した大麻からハシシを調達するため警察を頼っていた。彼は、そのハシシを詰め込んで研究所にバスで帰ってきた。
周囲からのざわめき、この匂いは一体なんなんだ！？
「車内で15分か20分もすると、周囲からあの匂いは一体何なのだ！？あのとても変わった匂いは何なんだ！？」とざわめき出した。
バルセロナを拠点とするCANNA基金が彼の人生と仕事を描いたドキュメンタリーの中で、ミシューラム博士はこの「奇妙なバス移動」についてこう振り返っている。
「つまり、私のバッグには5キロのハッシュが入っていたのです」。
先週92歳で亡くなったミシューラム博士の死は、ヘブライ大学のアメリカの友人たちによって金曜日に発表されました。（※2017年にカンナビノイド研究のための学際的なセンターの設立に貢献した科学者達）
研究を進めていく上での最初のポイントは、イスラエル保健省から許可を得られなかったという点です。そこでミシューラム博士は、法を無視して研究を進めます。そこで話題となったことがきっかけでした。
非難は受けつつも以降は穏便に、「毎回保健省に行って、警察への手紙をもらい、警察に行って一緒にコーヒーを飲んで、必要なハシシをとって、それでおしまい」だったと、ミシューラム博士は振り返ります。
1960年代のRaphael Mechoulam博士
1960年代、あるチームがTHCを初めて同定・単離したのを皮切りに、ミシューラム博士と彼が集めた研究者たちによる驚異的な研究成果が、エンドカンナビノイドに関するすべての研究の基礎となったのです。
1990年代に行われた一連の研究は、最終的にカンナビノイド受容体の発見と、ヒトにおけるエンドカンナビノイドシステムの研究につながりました。
大麻に関する人的・科学的知識の殆どが博士の功績
ヘブライ大学学長アッシャー・コーエンは先週の声明で、「大麻に関する人的・科学的知識の大半は、ミシューラム博士のおかげで蓄積されたものです。彼は画期的な研究への道を開き、世界中の研究者間の科学的協力を開始しました。ミシューラム博士は鋭敏でカリスマ的なパイオニアであった」。と、述べました。
THCとCBD（カンナビジオール）は1940年代に初めて大麻から抽出されましたが、その構造と化学的性質は、数十年後にミシューラム博士の研究室が解明するまで明らかにされませんでした。
そこで、ミシューラム博士はTHCがどのようにして高揚感をもたらすのかを解明することにしたのです。
コカインやアヘンなど、娯楽として使われる他の薬物の精神作用については、すでに解明されていましたが、大麻がどのように作用するのか、科学者達はまだわかっていなかったのです。ミシューラム博士は、それらの疑問に答えるため、THCの化学構造を解明した最初の科学者となりました。
THCはウェルネス、CBDは医療、双方の研究の重要性
ミシューラム博士のTHCに関する発見は、特に、大麻を娯楽用ではなく、癒しのハーブとして研究する真剣な研究者の間で、THCをより日常的なハーブ、ウェルネスのような感覚になるよう貢献していきました。
ミシューラム博士は、科学的思考を持つ大麻愛好家たちから「カリスマ」と呼ばれていますが、ミシューラム博士自身は、THCに関する初期の研究成果よりも、CBDに関する後の研究の方が重要だと考えていました。
ミシューラム博士が率いる1990年代の研究チームが、人体がカンナビノイドを生成することを発見し、そのカンナビノイドが人体全体に存在するカンナビノイド受容体に作用することを明らかにしたのです。
これらの受容体は、食欲の調節、痛みの管理、免疫システムの作動に役立つことが、やがて科学的に明らかになっていきました。
「受容体が存在するのは、そこに植物があるからではない。受容体が存在するのは、私たちが、体内で作られた化合物を通して、受容体を活性化させるからです。だから、私たちは、カンナビノイド受容体を活性化する内因性化合物を探しに行ったのです。」
と、 2018年に開催されたEuropean Congress on Epileptologyで語った。
European Congress on Epileptologyにて、ミシューラム博士の特別公演「Cannabinoids going back and ahead」は満員だった:https://www.ilae.org/congresses/13th-european-congress-on-epileptology
1992年、彼のチームは最初の1つを特定しました。その後、100個以上が発見されました。
ヘブライ大学の学長等も経て国際カンナビノイド研究会創設
1930年にブルガリアで生まれ、1949年に家族とともにイスラエルに移住。ワイツマン研究所で博士号を取得し、ステロイドの化学に関する論文を執筆した。その後、ニューヨークのロックフェラー研究所で博士号を取得し、ワイツマン研究所の科学スタッフになる。
1972年にヘブライ大学の正教授となり、1975年にはライオネル・ヤコブソン教授（薬用化学）に任命され、1979年から1982年まで同大学の学長を務める。
国際カンナビノイド医薬品協会と国際カンナビノイド研究会の創設メンバーでもある。1994年、イスラエル科学・人文アカデミー会員に選出され、2014年にはエルサレム・ポスト紙による「世界で最も影響力のあるユダヤ人50人」の一人に選ばれている。
2000年に化学のイスラエル賞（Exact Sciences）を受賞し、2020年にはイスラエル工科大学の権威あるハーヴェイ賞（化学工学・医学）を受賞し、この年はノーベル化学賞の候補にもなっていました。
多くの人の救いであることが確信できたから広めたい
Fundacion CANNAのフィルムメーカーから、なぜ2015年のドキュメンタリーを作ることに同意したのかと尋ねられたミシューラム博士はこう答えました。
「まあ、残念ながら、私は『ノー』と言う方法を知らないんです。それに、友達に頼まれたら、普通はイエスと答えるでしょう。
Fundacion CANNAとは？：大麻とその有効成分について調査・研究する財団。大麻植物およびその有効成分について、特に人体および精神への影響について科学的に研究および調査すること。大麻およびその派生物の消費に関する科学的研究。詳しくはこちら：https://www.fundacion-canna.es/acerca-de
それより、カンナビノイドは臨床での効果を大いに期待できるものだと確信してました。私はこの化合物のグループと内因性システムが重要であることを多くの人々に伝え、そしてそれらを強く推し進めたいと感じてました。
カンナビノイド、特にCBDやその誘導体、特異的なCB2アゴニストを伝統医学に受け入れられ、それらを統合していくこと、そして、さらに進化していくことを、私の同僚たちの研究に期待したいです。
と、未来の研究者たちに向けて、ミシューラム博士は、後のインタビューで語っていました。
HTJ
