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欧州EPA発効によるヘンプの未来は!?北海道ヘンプ協会代表理事を直撃

欧州EPA発効によるヘンプの未来は!?北海道ヘンプ協会代表理事を直撃

世界経済の1/3をカバーする、巨大な自由貿易圏を形成する事と成った、日本とEUの協定ですが、ヘンプ産業にはどのような影響があるのでしょうか?

昨日発効となったEPAに関して、HTJは、日本において最もヨーロッパのヘンプ産業と繋がりが深い、北海道ヘンプ協会の菊地代表理事に、今後の日本への影響についてお話を伺いました。

 

HTJ:

本日はお忙しいところ、どうも有難うございます。

菊地代表理事

当方こそ、このような機会を設けていただいてありがとうございます。

 

HTJ:

早速ですが、まずは先生が代表理事を務めておられる北海道ヘンプ協会について教えてください。

菊地代表理事

私は、かつて北海道立農業試験場で水稲の品種改良などに従事しておりましたが、在職中から産業用大麻(ヘンプ)の有用性と可能性に注目し、道を退職後にヘンプを北海道に再び広める活動に取り組んでいます。

2012年の春に任意団体の北海道ヘンプネットを立ち上げ、全道の仲間とともに講演会などを開催するとともに栽培免許の取得支援などを行っておりましたが、2016年3月に東川町の農家とともに北海道知事より研究者免許を交付され、ヘンプの栽培、加工試験に取り組み始め、同年の8月に一般社団法人化し、現在に至っております。

当協会の目的は、ヘンプを北海道に基幹的な作物として全道に普及し、北海道にヘンプ産業を創出することです。

目標面積は2万ha。その実現に向けて普及啓発活動や国や道への各種要請活動に取り組んでおります。現在、道内外、海外在留者を含めて、正会員、準会員あわせて70人・団体が加入しています

 

HTJ;

HIHAは、ヨーロッパとの繋がりが非常に深いと伺っています。HEMP-itを含め、これまでに、どの様な関係を築いておられますか?

菊地代表理事

当協会は、国内では唯一のEIHA(ヨーロッパ産業用大麻協会)の準会員で、ドイツで開催されるEIHAの国際会議には、2013年からほぼ毎年参加しており、その内容を報告書にまとめ日本に紹介しています。

また、ヨーロッパのヘンプ産業の視察ツアーを実施しています。2015年にはフランス、2016年にはオランダ・ドイツのヘンプ産業を視察し、それぞれ報告書を取りまとめています。

特にHemp-it との関係が深いのですが、2016年の9月に本部のあるル・マンを訪問し、ヘンプの試験圃場を見学しました。そこで、サンティカ27号など、THC(大麻草に含まれる向精神物質)が完全0%の育成品種の生育状況や品種特性を詳しくお聞きし、北海道への導入を考えるようになりました。

その年の12月に再び渡仏し、Hemp-itと共同研究契約を結び、現在当協会は、同社の代理人として、日本への種子輸入と日本での種苗登録について政府に働きかけています。

2017年7-8月には、Hemp-itのフェブリエCEOを日本にお招きして東京と札幌で「日仏ヘンプ国際交流シンポジウム」を開催しました。

その他、EIHAの現会長のマーク・レインダース氏が社長を務めるオランダのHempFlax社とも親交があり、当協会の法人会員が同社のヘンプ繊維を原料として新たなヘンプ製品などを開発中ですし、現在、同社をはじめフランスの企業からヘンプハウス用の建材を用いて、国内でのヘンプハウスの建築を目指しています。

 

HTJ:なるほど。では、その他に交流のある国や地域はありますか?

菊地代表理事

お隣の中国との交流が盛んです。

2013年に北京で開催されたアジア大麻産業国際会議に参加し、中国はじめ韓国の企業家や研究者と交流しました。

その後、2016年に開催された第13回EIHA国際会議に登壇し、私がヘンプに関する北海道の状況とHIHAの取組みについて発表したのですが、その際に会議の視察に来ていた黒龍江省科学院の副院長、そしてヘンプの研究をしている大慶分院の院長から、ハルビン市で開催される大麻産業国際研究会での招待講演を依頼されました。翌年の2017年8月には、同じくハルビンで開催された漢麻産業国際会議にも招待されました。

そして、昨年8月、当協会が主催して中国黒龍江省ヘンプ産業視察ツアーを実施し、同省のヘンプ産業の振興政策や科学院大慶分院のヘンプ研究、一次加工会社などを視察しております。その際、同省科学院大慶分院と日中科学技術協力協定を締結し、今後5年間にわたってヘンプに関する研究交流を行うことになりました。

HTJ:

まさに世界の舞台においてメインプレイヤーである、フランスと中国と共に実際に活動されているのですね。現状、鎖国状態である日本にあって、このように精力的に活動している団体が存在している事に驚きます。

菊地代表理事

手前味噌にはなりますが、実際に、このようにHHAほど海外交流に持続的に取り組んでいる民間の団体は国内にはあまりないと思います。百聞は一見に如かず、進んだ海外の状況を直接見てもらうことが大事と考えており、ツアーには、道議会の議員や道庁の職員が参加しています。もちろん、報告書はじめ私たちが得た海外情報はすべて当協会の会員と自治体などに提供して、世界の現状を理解して頂く為の資料として公開しています。

 

HTJ:

そのように、非常に国際的な繋がりを築いてこられた訳ですが、今回のEPAが、今後のHIHAの活動に、どのような影響を与えるとお考えですか?

菊地代表理事

EPAによってヨーロッパから安いチーズなどの乳製品やワインなどの農産物が輸入されるようになると、北海道の農業や酪農が大きな影響を受ける可能性があります。特に、チョコレートなどの菓子類の輸入が増えて、国内の菓子生産が減れば、国産の砂糖原料である北海道産のてん菜(ビート)の栽培が減るかもしれません。

大規模な畑作農業の輪作体系を維持するためには、麦類、豆類、ばれいしょ、てん菜といった主要畑作物のバランスの取れた作付けが必須であり、新たな輪作用の作物として、私たちはヘンプの有用性を訴えています。

 

HTJ:

これから需要が冷え込み、同時に海外との競争に晒される事が予想される、換金作物や加工原料としての作物の代替作物、つまり変化していく今後の日本の農業を救う未来の商品作物としてヘンプの普及を目指しているという事ですね?

菊地代表理事: 

そうです。しかしヘンプの普及を訴える時に、一番困るのは国民の大多数がヘンプについて、正しい情報を何も知らされていないことです。戦前までは、ごく普通の作物であった「麻」と「ヘンプ」が同じものであることが、なかなか解ってもらえません。

ヘンプは、衣食住に関わる多様な製品の原料となります。従来の衣料などの繊維製品はもちろん、ヘンプナッツやヘンプシードオイルなどは必須脂肪酸を豊富に含んだスーパーフードとして世界的に流行していますし、幹の部分は断熱材などの建築資材にもなり、また、ベンツやBMWなどの高級車の内装材などのプラスティックの原料にもなっています。

ヘンプ由来製品は、石油製品と違って製造される段階で二酸化炭素を排出しないし、基本的に生分解性です。そして将来的に廃棄される段階で二酸化炭素が排出されても、それはヘンプが生育する段階で環境から吸収した二酸化炭素を環境に戻しているだけなのです。環境意識の高いヨーロッパでは、こうしたヘンプの高い持続可能性や環境負荷の低さに注目し、すでに多様なヘンプ製品が実際に生産され流通しています。

 

HTJ:

誰しもクリーンな環境で健康に暮らしたいという想いは世界共通です。そう言った意味で、環境意識というものは今後、高くなっても低くなる事は無いですね。つまり、環境意識の高い社会とは、未来だと言っていいいと思います。未来の姿である欧州と、時代遅れの日本。両者が自由貿易を始めるという事に関して、ヘンプ産業の切り口からどのようにお考えですか?

菊地代表理事

日欧貿易では、繊維などすでに無税扱いのヘンプ原料が多くありますが、建材ボードなどの加工品は十数%の関税がかかるものがあり、その場合は今回発効したEPAによって国内価格が低下し、消費が増える可能性があります。

ヨーロッパでは、個人同様、企業も環境意識が高く、環境に配慮した製品づくりやその原料を生産する農家への支援などを積極的に行っている企業が多いようです。輸出先の国に対しても同様の配慮を行う企業もあり、Hemp-itは、ヘンプの普及を通じて北海道農業の持続的な発展に貢献をしようと働きかけてくれています。

HIHAは、他のヨーロッパの企業ともタイアップし、ヨーロッパのヘンプ製品を国内に紹介するとともに、そうした企業に対して、北海道におけるヘンプの普及とヘンプ産業の振興に力を貸してもらうことを考えています。

つまり、輸入製品を増加させることによってヘンプの認知度を上げ、国内へンプ市場を拡大して、国産のヘンプ製品への希求を高めるという戦略です。

日本では、大麻取締法によってヘンプの栽培が厳しく制限されているとともに、輸入に関しても貿易障壁が多く存在します。例えば、ヘンプの播種用の種子ですが、現状では仮にTHCが完全に0%のものであっても輸入は認められません。

 

HTJ:

向精神成分を全く含まない品種でも、輸入できないのですか?論理的な理由が分かりませんね。そのような論理性を欠いた理由で農作物を禁輸にする事は、今後、貿易障壁として国際問題になってきたりしないのでしょうか?

菊地代表理事

そう言った政治的な問題はわかりませんが、ヘンプに関してこのように厳しい日本を、ここまで紹介してきた海外団体との連携によって変えていく運動を「ヘンプに関する開国キャンペーン」と呼んで、今後、活動を強化していく予定です。

 

HTJ:では、そのようなHIHAの活動が、日本全国に伝播して産業として育って行くには、どう言った条件が必要となってくるでしょうか?また、今後の日本のヘンプ産業に、どのような展望をお持ちですか?

菊地代表理事

HTJでも大きく報道されましたが、昨年末にアメリカ農業法20178が成立し、ヘンプ(産業用大麻)が合法化されました。昨年、視察した中国黒龍江省でも一昨年、THCが0.3%以下のヘンプを工業用大麻と定義して省政府が積極的に普及を推進しています。

しかし日本では、大麻取締法の第一条によって、THCの有無にかかわらず大麻はすべて麻薬として禁止しています。どうして諸外国にできて日本ではいまだに70年前の法律を改正しないでいるのか理解に苦しみます。まずは、これを改正することが大きな課題です。

早急に大麻取締法第一条に、陶酔成分を全く含まない安全なヘンプというものの定義を導入し、じゃがいも等の一般的な農作物と同等に扱う制度を整えなければなりません。 現状のような、2.7mもの高さのフェンスで畑を囲い監視カメラを付けなさいという行政指導などは、海外からみると狂気の沙汰です。それを良しとする日本政府や国民は、彼らに言わせれば何とも不思議な国ということです。

国や道は、諸外国の政策を真摯に勉強し、関係法令の改正をおこなって、ヘンプの栽培を奨励し、それを原料とするヘンプ産業の育成を図るべきだと考えます。

日本では、未だ大麻への偏見が強いことから、ヘンプの普及には広範な国民の理解が必要です。そのため、私たちは海外の企業や団体と連携して、海外の進んだヘンプ産業や法制度、様々なヘンプ製品などを、今後も日本に紹介してまいります。

そして、国内におけるヘンプの認知度を高めるとともに、ヨーロッパやアメリカ・カナダなどのようなヘンプの大規模栽培が可能な北海道での普及にむけて、国や道に対して法的な環境整備や栽培者免許の交付を求めてまいります。

 

HTJ:

本日は、貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

先日は、旭川のヘンプ協会の設立総会、そして10月には国際会議と、多忙な中インタビューに答えていただいた菊池代表理事。元北海道立農業試験場長、そして「夏の短い北海道では旨い米は出来ない」と言われてきた通説をひっくり返した、有名な北海道産米「ゆめぴりか」の開発と、輝かしい経歴に似つかわしくないほどフランクに、様々な質問にお答えいただきました。

HIHAでは、今年の10月には、本文中にも登場した中国やフランスをはじめ、世界に呼びかけてヘンプの国際会議を北海道の旭川(HIHAの本部)で開催する予定にしており、並行して、それまでにHIHAの会員を中心に、日本初の産業用大麻の一次加工会社の設立を準備中とのことです。

HIHAの入会を希望される方や問い合わせはHTJ事務局にお問合せください。

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AUTHORこの記事をかいた人

Yosuke Kogaのアバター Yosuke Koga HTJ 編集長

1996年カリフォルニアで初の医療大麻が解禁。その5年後に現地へ移住し、医療大麻の家庭栽培、薬局への販売などの現場や、それを巡る法律や行政、そして難病、疾患に対し医療大麻を治療に使う患者さん達を「現場」で数多く見てきた、医療大麻のスペシャリスト。

10年間サンフランシスコに在住後、帰国し、医療機関でCBDオイルの啓蒙、販売に従事し、HTJのアドバイザー兼ライターとして参画。グリーンラッシュを黎明期から見続けてきた生き証人。

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