Hemp Today滞在記 Part2

ライトに浮かんだゲートを左に曲がると、真っ黒な闇の先にぽっかり浮かぶエントランスが見える。絵本で見るような風景だ。本当に着いた、とは声には出さなかった。 

車を降りると、エントランスの灯りでナクロ宮殿の外観がうっすらと見て取れる。周りが森であることも、その灯りでやっと気づけるほど周りは深く黒い。 

エントランスのドアが開くと、眠そうな笑みでカートが迎えてくれた。明日の朝クラクフのエアポートホテルへ迎えを寄越す話など、彼の顔を見たら忘れてしまった。編集局員の紹介も早々に済まし部屋へと案内された。 

編集局員の名はヨースケ、ダイスケ、コースケ。北海道と九州から集まった3人の名が偶然スケさんだった。 

この偶然は何かの必然なのか輪廻なのか?と、簡単に偶然で終わらせない癖は、人生には色んな伏線があると思い、それを受け入れて生きていると結構楽しく生きれるからだ。 

案内された部屋は2階の角部屋にあり、2部屋つづきで4人で過ごすには十分な広さだった。 

滞在中のドリンクはセルフサービスなので、部屋を出た居間に置いてある冷蔵庫からビールを4本抜き取り、皆んなで「本当の乾杯!」と無事の到着を祝った。寝ていないハイな気分と乾いた喉に流し込んだビールが疲れを忘れさせ、酔いは一気に深くなっていった。 

 5月24日 

ナクロ宮殿で迎える朝は、目覚めると先ず鳥の鳴き声が徐々にけたたましく聞こえ始め、薄っすらと開けた目には太陽を乱反射した葉の光が差し込んでくる。昨晩着いた時にはまったく見えなかった景色だ。ナクロ宮殿の客室となっている各部屋には、その光を遮るカーテンは置かれていない。カートはこの季節に宮殿へ差し込む明かりを『グリーンライト(森の光)』と呼んでいた。イカすネーミングは宮殿の雰囲気を盛り上げる。 

欧米人は緑の季節を存分に楽しむ習慣があるように思う。晴れていれば必ず外で食事をする所など、日本人にはちょっと慣れない習慣だったりする。外は気分が良いのに出ないのか?と誘われても、私はダイニングの方が気持ち良いんだから仕方がない。無理に気を使って動いたりすることもない。 

ここでは皆が自分流で、最初に滞在する時にカートから言われることがある。この宮殿では自分なりの楽な過ごし方をしてくれて良いと言うが、彼のその口調は「マストでここを楽しめ!」という強烈な印象を受ける。 

誰しも数日過ごすことでその宮殿の緩やかな雰囲気に取り込まれるのだが、驚いたのはお喋りなアメリカ人が3日目にはみんなと同じ空気感を漂わせ始めてあまり喋らなくなっていたことだ。今思うと彼らも宮殿に取り込まれ、新しい何かを感じたのかも知れない。 

この時期のポーランドでは朝3時半頃から薄っすらと明るくなり、日没は夜9時頃で1日がとにかく長い。この日中の長さの違いは日本人にはとても不慣れなもので、欧州へ行くたびに時間的感覚に違和感を感じる。冬も然りで、夕方3時頃から暗くなる。 

今回の滞在で全く想像していなかったのは、5月下旬なのに真夏のような暑さだったことだ。内陸の乾燥している地域は木陰で涼を取る事ができるが、アムステルダムなどの沿岸は非常に湿度が高く、夜は日本の熱帯夜と同じだ。今年の猛暑ではフランスでも死者が出るほどで、欧州も気温上昇が止まらないようだ。 

 私達は予定外で早くナクロ宮殿に着いたこともあり、今日は一日移動の疲れをとりつつ明日の打ち合わせをしておこうと思い、全員が起きるのを待ちつつキッチンへコーヒーを取りに行く。滞在中に宮殿で一番早く起きるのは私で、いつもキッチンのライトを点けてコーヒーを淹れて一服していると奥さんのマジェンナがやって来るのがいつものパターン。 

皆んなが起きるまでどのくらいだったのか、この森を見ながらコーヒーとタバコで時間は止まってしまう。何が良いのだろう?と考えても『それ以上もそれ以外も何もいらない』と感じる。それは最高に贅沢な時間を過ごしている証だと思っている。 

みんなが起きると早速疲れと連動した胃袋の欲求を満たしにダイニングへと急いだ。私はなかなか腹が空かないタイプだが、欧州に来ると何故か食欲があるように思う。ダイニングの大テーブルにはサラダ、チーズ、ハム、卵料理、各種パンやソフトドリンクなどは勿論、ヘンプナッツ、ヘンプバター、ヘンプナッツクッキー、ヘンプティーなどまで揃っていた。カトラリーは年季の入った銀食器だ。食器の柄の擦れでさえ宮殿とマッチした雰囲気を感じてしまう。 

取り分けてそのまま庭に出る者や、ゆっくり室内から景色を眺めながら食べる者。昨夜会えなかったサミット参加者とも軽く挨拶を交わしたりして、食後は各々がボーッと外を眺めていた。この後も滞在中は、気がつくとボーッとしている事がごく自然な事となっていく。日本では体験できない時間の流れだ。一体自分は何に満足しているんだろう?と時を忘れる仕組みが何なのかを漠然と思い浮かべようとする。 

 後日知ることになるが、ヘンプトゥデイ編集局の2人は日本から仕事を持ち込んだが、現地のネット環境上仕事が一切できなかったのだが、気分をパチンと切り替えて存分にナクロタイムを楽しんでいたんだと思った。 

ここナクロ宮殿でのイベント開催期間は、朝起きてから寝るまでみんなが一つ屋根の下で過ごす合宿所の様な雰囲気になる。朝はパジャマと裸足でおはよ~と始まる人もいる。敷地外へはほとんど出ることはないし、何故かその気にもならない。3~4日くらいすると、敷地外へ出てないね~ちょっと散歩に行こうかと言う話が持ち上がる。行くとしても歩いて10分ほどのところにある小さな商店と隣接した教会とその墓地くらいだ。行くと必ず寄るお店で、そこのおねーさんとも顔見知りになったが、ポーランド語ができないと会話は全く成立しない。初めて訪れた時にライターを買ったんだが、何気なく貰ったライターが売春クラブのもので、それを使っていたら皆んなからは「本当にそのライターを彼女がよこしたのか?ユーに気があるからだ!」と茶化されたりもしたのを思い出す。 

ポーランドへ行くと墓地にびっくりするはずだ。墓に枯れた花などはない。毎日家族の誰かが会いに来るのだ。中にはほぼ花壇になっていたりする墓もある。それぞれの家庭で弔い方が微妙に違うのも見て取れる。この様に国民が心情に熱い事を知ると、ポーランドという国に安心感を持つのは当然の感情だろうと思う。 

現在ナクロ宮殿では、今年2月から始まったヘンプクリートを使用したワークショップシリーズによる宿舎作りが3階の屋根裏部屋で進行中だった。非常に軽くて丈夫なヘンプクリートは、日本の土壁(珪藻土)のように呼吸し、室内環境を安定してクリーンに保つ効果がある。建築用化学物質によって身体を壊す様な事などは全く無い。厚さにより強度は3階建てのビルが作れるほどだ。HTで同じく顧問を務めるネパールのディラージ・シャーがこの専門家だ。ディラージ夫妻はネパール地震を機に母国へ帰国し、被災者のためにヘンプハウスを建てる支援を行なっている。現在は、ネパールで自然に生えている大麻草を使い、地元の若者を雇用してアパレル商品やコスメティック製品などを製造販売している。過去には日本の山口大学のグループが、ヘンプハウスの建築方法を学びに来ていたと聞いている。 

海外の国際ヘンプ会議に出席すると良く見せられる日本の画像がある。それは長野県にあるヘンプハウスの画像だ。日本には大昔からヘンプクリートの文化があるじゃないか!と。特にインテリジェンスヒッピーやラスタマンからは、その話と共にハイレセラッセと天皇陛下の関係や、日本の神道もセットで話されることが多い。 

話は脱線するが、色んな話の中で全世界の宗教家が集まり、宗教界のリーダーを投票により決めていることや、その候補の中に日本人もいる事など、聞けば聞くほど日本人があまり知る事のない、そして興味深い話が様々な人たちから聞けることは国際ヘンプ会議での出逢いの一番の楽しみでもあるのだ。 

話を戻そう。 

昨日少し挨拶を交わしたモンゴルから来た2人組とも言葉を交わし、アジア人独特の「共感」を感じつつ、イベントの前乗りはアジア人だけなんだなあと思っていた。彼らは翌日から毎晩私たちの部屋に来ては酒を酌み交わしお互いの夢を語り合う関係になる。 

彼らヘンプモンゴリアに関しては別の特集として彼らのプロジェクトを掘り下げてみたい。モンゴルは過去に2度ほど国を挙げてヘンプ栽培に取り組もうとした経緯があるが、残念ながら実現には至っていない。では今回のプロジェクトは実現可能なのか?と浮かぶ疑問をクリアしつつ、今後の日本の関わり方を模索してみたいと思う。 

 プロジェクトの概要は、規模が25億円で一企業での初期投資としては非常に大きなプロジェクトであり、更には一企業で保有する栽培場としては世界最大の面積を有し、行くは様々なヘンプ製品をモンゴル国内で一貫生産し、全世界へ様々なヘンプ製品の一大供給元となることを目指している。 

そして、彼らはブロックチェーンによって、現在ヘンプ関連産業が金融機関と取引きが出来ないなどの現状を打開する新たな展開として、ヘンプ産業への投資などを促すヘンプトークンの発行も計画の主軸を成している。 

このアイデアは非常に斬新であり、アンチスタンダード的な発想には心くすぐられる。金融機関の非協力的な姿勢に反発する動きでもあると捉えられ、「既得権益の打破」と「抑圧された大麻」の相関関係が反映されるとこのトークンが面白い動きを始めるかもしれない。 

その反面、既に世界のトップランナーとして走り続けている企業家からは、世界の需要と供給のバランスを危惧する声が早くも上がっているのも事実だ。 

彼らヘンプモンゴリアは一体何ができるのか?そして私たち日本人が関われるプロジェクトなのか注視したいと思う。

(つづく)

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riki hiroi
riki hiroi

EACH JAPAN INC.

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